稲荷寺のパラレル少女

良介は飛びのいた場所からそう言った。


少女はうなづき「そう。私の名前は稲荷よ。よろししくね」と、言った。


幽霊かもしれないと思っていた少女が、実はキツネだった。


俺は化かされているってことか?


差し出された細い手を恐る恐る握り締める。


「君は、本当にキツネ?」


触れている手は人間のもので間違いない。


白くてやわらかくて、思わず照れて頬が赤くなってしまった。


「そうよ。正確には最上稲荷に仕えている稲荷よ」


「最上稲荷の、稲荷さん?」


稲荷はまたうなづく。


あれは石で彫られた置物のはずだ。


「で、でもすごく人間っぽいね」


言うと、稲荷は目を伏せた。


「こっちの世界では稲荷も狛犬も仁王像も忘れられゆく存在なの。そんな中で覚えていてもらうためには、こうして人間のような形を取ることしかなかった」


稲荷は説明をしながらその場でクルリと回って見せて、そのたびにキツネの像やキツネのぬいぐるみに化けて見せた。


良介は目を白黒させてそれを見つめる。


変化できるキツネなんて、初めて見た。