稲荷寺のパラレル少女

ここにはぽつんと本殿だけが立っていて、周囲を飾る仁王像もなければ手水舎も拝殿もない。


こんな場所、良介は知らない。


背中に冷たい汗が流れ落ちていく。


ガタンゴトンと大きな音が聞こえてきて息を飲む。


一体なんの音だと頭上を見上げてみれば、空中に浮かぶように銀色の線路がかかっており、その上を電車が走り抜けて行った。


「電……車?」


線路はどこまでも続いているようで、先を確認することはできなかった。


「電車だけじゃなくて、バスも車もちゃんとあるわよ」


少女は自身に満ちた声で答える。


しかし良介にその言葉は聞こえていなかった。


建物はどれも背が高く、ビルが両側から迫ってきているように見える。


良介が立っている丘から下を見下ろして見れば、そこから更に下へ下へと町が続いている。


ビルとビルとつなぐ端や道路。


どこに続いているのかわからない、長い長い階段。


そのもっともっと下に、提灯がかかった店がある。


その下にはベランダに干してある服を見つけた。