ハイネを撫でてから後ろを振り返らずに、レイの執務室へと一直線へと向かう。


「失礼致します」


 部屋へと入れば、書類の山に囲まれたレイが私を待っていた。

 相変わらず仕事に根気詰めているのか、目の下には薄らとクマが出来上がっている。

 戦争も起これば、ありとあらゆる仕事は湧いて出てくるのだから無理もないと言えばそうだけど……もう少し休んで欲しい。


「急に呼びつけてしまってすまない。少し話したくてな」


 凛とした彼の声に、無意識に脳が揺さぶられる。

 目を通し終わった幾つかの書類に名前を記して、一区切りついたのか席を立った。


「カイル、二人で話したい。席を外してくれ」

「承知致しました」


 扉を丁寧に閉めて、カイルさんが遠ざかっていく足音に耳を澄ませていると、レイが私の前へとやって来る。


「……慌ただしい毎日を過ごさせてしまっているな」

「ううん。そんなことないよ」

「何とか戦争に終止符を打てそうな段階まで持ってこれたんだ。悪いが、もう少しだけ辛抱してくれると助かる」


 色々と我慢をしてきているのはレイ自身だっていうのに、ここでも私の心配をしてくれる彼はやっぱり優しい。


「ルフィアを呼んだのは、どうしても礼が言いたかったんだ」

「お礼?」

「ああ。魔法で生み出したゴーレムのお陰で被害が最小限に済んだ。これも全部、ルフィアのお陰だ。本当に感謝する」


 真っ直ぐな瞳に見つめられて嬉しさが込み上げてくるのと同時に、レイの口から魔法が完成したことを知らされたと腑に落ちる感情が胸を包む。