ひたすらに歩いて来たんだと感じたのは、じんわりと広がる靴擦れの痛みが滲み出た時だった。

 普段から城を散策していたはずなのに、辺りを見渡しても見慣れた景色は何もない。

 どこまでも続く長い回廊で一人、支柱の間から度々顔を覗かせる月を見上げた。

 一心不乱に歩いてきたせいか、どこか冷静になってきた思考が呼吸を整えろと訴えかけてくる。

 上がった息を整えていると、ふと見つめた視線の先に木々に囲まれたこじんまりとした建物が映り込む。

 ……どこなんだろう、ここ。

 これまでのお城での生活の中で踏み込んだことのない場所に、ほんの僅かに胸が弾むのが分かった。

 足をそちらの建物へと向けて、吸い込まれるようにして近づいていく。


「綺麗な所……」


 お城とは思えない殺風景さがあるものの、手入れが行き届いた庭には月明かりを浴びて輝く絹のような滑らかな白い花が咲き誇っていた。

 甘い香りが風と共に舞いながら、私の鼻腔を擽っていく。