……わけなかった。


「はいどうも。遊んでくれて、ありがとう」


 顔がこれでもかってぐらい近いというのに、冷静沈着でいる、これが何よりの証拠。

 こんな美青年に言い寄られれば、スキルも暴走するかなって思ってたのに。


「はあ……セドリック相手でも、どうにもならないか」


 ため息を零しながら、私自らセドリックから離れて、ソファーの背もたれに頭を預けた。

 心臓はドキドキしないし、甘い言葉に体温は上がらないし、ときめくシチュエーションになっているというのに、なーんにも感じない。

 師匠の分析通り、行動による刺激の排除、甘い誘惑の無効化がきちんとされていた。

 スキルの効果はどうやら絶対のようだ。


「それで?僕にこんな危ないお願い事してきた理由はなんだい?」


 お遊び程度で口説いていたのは分かってはいるけれど、半分本気にさせたようで、何も反応しない私を見て、少しだけセドリックは不愉快そうだ。


「実は――」


 私は事の経緯を話して、獲得したスキルの事を洗いざらい話した。

 話しを聞いてる途中で、何故か頭を何度か撫でられ慰められつつ、話し終わった時点でセドリックは顎に手を添えて何やら考え事をしていた。

 貿易商の彼に、このスキル解消法のためのヒントを持っているとは到底思えない。

 でも、今までだって私の力になりたいと彼は協力してくれる、本当にいい友人なのだ。


「まずルフィアを弄んだ、その男を成敗したいね」


「それ、貴方が言う……?」


「僕はいつだって女性を大事にするし、悲しい思いなんてさせた事ないよ」


 堂々と言い放つ姿には嘘偽りは無さそうだ。

 罪作りはしない男だと自信満々に言う彼に、苦笑を浮かべるしかない。


「そのスキルのせいで、ルフィアは落ち込んでいたんだね」


「素敵な恋をしたいなあって憧れていただけなんだけどね。その結果がこれってあんまりじゃない?」


「ああ、まったくだ。女性は誰だって幸せにならなきゃダメなんだよ、ルフィア」


 真っ直ぐな瞳でそう言われると、きゅうっと胸が締め付けられた。