一昔前に活躍した魔術師で、数々の功績を残したはずなのにお金が大好き過ぎてついたあだ名が守銭奴魔術師だった。その名に相応しく魔術院で働く傍ら、自分の財産を守るために金庫や錠、鍵について徹底的に研究していたという。
 彼のお陰で王宮の武器庫や銀行の金庫は安全性が高まったのは確かだ。
 そしてもっと手軽なものを貴族たちから頼まれてできたのが宝石箱だった。

(最初に箱の中に入れた品が鍵になる。一体どれのことかしら……?)
 宝石箱が入っていた箱にあったのは祖母からの手紙と絵はがき、そしてハンカチだ。
(絵はがきは旅行のお土産だし、ハンカチはお祖母様が持って帰るのを忘れていたものだし……)
 これが鍵かと聞かれたら絶対に違う。

 あの箱以外にも、祖母の遺品は屋敷内にある。しかしそれは祖母が暮らしていた屋敷から引き上げてきたものなのでその中に入っているとは考えられにくい。
 エオノラが腕を組んで懊悩していると、クリスが一つ提案をした。
「私の屋敷には大きな書架がある。そこに彼に関する本や宝石箱に関する本がないか調べてみよう」
「えっ、それは構いませんが……お身体に障るといけません。それにこれは私の問題なので」
 その申し出はとても嬉しいが不治の病を患っているクリスに無理をさせては大変だ。
「無理はしていない。……それより勘違いするな。これは、食事の対価を払っているだけだ。ハリーの頼みにしても、私自身借りばかり作るのは嫌だからな」
 クリスは腕を組んで椅子の背もたれに背中を付けるとそっぽを向く。