「……分かりました。すぐに門を開きます」
 紙袋を抱えたクリスは頬を引き攣らせるが、やがて溜め息を吐くと諦めた様子で鉄門を開けに行った。
(……凄い。いろいろと押し切ったわ!)
 感心したところで、エオノラは二人の邪魔にならないようお暇の挨拶をする。
 すると、青年が待てというように手で制してきた。
「こんなところで立ち話しで終わりにするのも気が引ける。この屋敷の庭園でお茶でも一杯飲んで帰ると良いさ。見所はなんと言っても早春に咲く美しいバラだよ」
「えっ、ですが侯爵様の許可なく勝手に入るわけには……」
 すると青年はそんなことかというように腰に手を当てて破顔一笑した。

「俺は彼の客人。客人の俺が君を招待するのだから勝手ではないさ」
「えーっと……」
 胸を張って主張されても、こじつけな気がしてならない。
 どうしようかと躊躇していると、クリスが門を開いてこちらにやって来た。
「彼は駄目だと言ったところで私の話を聞きやしない。お茶の用意をするから一緒に来るといい」
「ありがとうございます。……お言葉に甘えてお邪魔します」
 入る許可を得たエオノラは青年と一緒に屋敷の門をくぐり、雑草を除けながら庭園へと歩いていく。