「うちをゴミ置き場か何かと勘違いしてないか?」
 見目麗しい雰囲気とは裏腹に表情は顰めっ面だ。
「ゴミを置いているわけではありません。軽食を持ってきたんです。もう体調は大丈夫ですか?」
 不安げに尋ねるとクリスは一瞬瞠目する。
 やがて、柔和な表情になると口を開いた。

「お気遣いありがとうございます。私には大変勿体ないことですね」
「いいえ。そんなこと……」
「それで私はエオノラ嬢の自己満足にいつまで付き合えばよろしいですか?」
「なっ……」
 そこまで言われてさすがに傷ついた。言い返そうとしたエオノラだったが、口を噤んでしょんぼりと肩を落とす。自己満足や偽善のために行ったつもりはないが、もしそれでクリスが気分を害したのなら申し訳なくなったからだ。

「私は侯爵様の体調が心配だったんです。ですが、私の行動で不快な思いをさせてしまったのならごめんなさい」
 悲痛な表情を浮かべるエオノラはクリスの目を見て心の内を吐露する。
 エオノラはクリスの体調不良に加えて、琥珀の声を聞いてしまった。ただの音ではなく、言葉として語りかけてくる程に、琥珀はクリスのことを心配している。
 だから余計に放ってはおけなかったのだ。

 見つめていると、クリスの瞳に悲しい色が浮かんだような気がした。それはほんの一瞬のできごとで、彼は表情が見えないようにサッと顔を伏せると、冷たい声で突き放した。
「……もう屋敷には来ないで欲しい。食べ物もいらない」
 クリスはこちらに背を向けるとさっさと歩いて行こうとする。

「あ、待って……」
 頭で考えるよりも先に口が動いていた。今引き留めないとクリスは二度と会ってくれないような気がする。