婚約している身でありながら、何も知らなかったアリアに言い寄り、好意を抱かせたリックがこの中で一番悪いはずだ。
 しかし、リックは謝罪するどころか反省もせずに開き直っている。そればかりか、エオノラがアリアを攻撃しようとしていると主張して、一番の悪者に仕立てようとしている。
 すかさずエオノラは反論した。
「私がアリアを傷つけるわけないじゃない。この子の従姉なのよ?」
「どうかな? アリアの話によると、恩着せがましく服の趣味を押しつけていたそうじゃないか。男爵の地位にあるホルスト家と違って、フォーサイス家は伯爵家で家格は上だ。アリアは逆らえない。正直、君がそんな嫌味な人間だったなんて知らなかった!!」
「……っ!?」
 予期せぬ告白にエオノラは言葉を失った。

 アリアはそんな風に思っていたのだろうか。嫌ならはっきり言ってくれれば良かったのに。しかし、エオノラはすぐにその考えを否定した。
(いいえ。心優しいアリアのことだから、思っていても口にできなかったのよ)
 エオノラが口を引き結んでいると、アリアがリックの袖を引っ張った。