魔術を使える人間は大変貴重な存在だ。もし魔力持ちであることが分かると、王宮の魔術師が集う魔術院に保護されてそこで暮らさなくてはならない。これはエスラワン王国の法律でも定められており、国民に拒否権はない。
 魔術院へ行けば魔術研究のために一生を捧げることとなり、家族に会うことは許されない。

 初めてこの力が分かった時、家族の間で真剣に話し合いになった。エオノラ自身は魔術院に何の魅力も感じていなかったし、それよりも一生を魔術院で過ごさなくてはいけないと知って、当時は大泣きしてしまった。
 幸い、エオノラの力は目立たないこともあり、家族だけの秘密になった。
(私が魔術院に行けばお父様とお母様に会えなくなる。二人は国王陛下の仕事でずっと家に帰ってこない。これ以上大切な家族との時間を奪われたくないし、力のことは絶対、秘密にしておかないと)
 エオノラはいつも『凄腕の鑑定士』という架空の人物を作り上げて鑑定結果を説明するようにしていた。


 男爵は小さな箱を手に取り、蓋を開けて中身を確認する。
「これで安心だよ。アリアもエオノラと同じで社交界デビューを控えているからお祝いにこれを使って何か贈ろうと思ってるんだ。――それに、ここだけの話なんだけどね……」
 途端に男爵は声を潜める。この先、何を口にするかはエオノラもゼレクも容易に想像がついた。


「昨日家に戻ってびっくり。なんとアリアがキッフェン伯爵のご令息の心を射止めたようなんだ! しかも相思相愛で、ほぼ毎日二人は劇場や公園に出かけているようなんだ。今日も朝早くからパトリック様に会うといって出ていったよ。嗚呼、まさかこんな素晴らしいことが起きるなんて!!」
 話を聞いて耳を疑った。