フォーサイス家は他の伯爵と比べてその歴史は長く、由緒正しい家柄だ。また、父もゼレクも王宮でそれなりの職に就き、領地経営も安定しているので裕福。他の貴族たちからすれば繋がりが欲しくて仕方がない。
 エオノラが社交界にデビューすれば家柄目当てで取り入ろうとしてくる輩が数多く現れる。それを危惧して婚約者を作ったのに、とどのつまり無駄に終わってしまった。

 そして、繋がりが欲しい貴族たちと同程度にはフォーサイス家を良く思っていない貴族たちも存在する。今回の件であらぬ噂を立て、陥れようとする者も出てくるだろう。
「心配してくれるのはありがたいけど、私なら大丈夫よ。アリアの方が事実を知って困惑していたわ」
 すると不服そうにゼレクが気色ばんだ。

「アリアもアリアだ。知らなかったとは言え、エオノラの相手に現を抜かすなんて。それに頻繁にエオノラが会いに行っていたんだから、普通どういう関係なのか気づくだろう」
「あの子は純粋なの。婚約していることを秘密にしていたんだから分かるはずないわ。それに婚約はなかったことになったんだから、この話はもうおしまい」
 エオノラが手を叩いて話を終わらせたところで丁度、執事のジョンが書斎にやって来た。

「ゼレク様、エオノラ様。ホルスト男爵がお越しになりましたがいかがなさいましょう?」
 ホルスト男爵と聞いて、思わず肩が揺れてしまう。
 エオノラは生唾を飲み込むと努めて明るい声で言った。
「すぐに応接室へ案内してあげて。そうだった。このペリドットは叔父様からの依頼だったのよ」
 白の手袋を脱いでペリドットの箱を手に取ると、中身を確認して蓋を閉じる。それをジョンに渡すと、彼は銀盆に載せて運んでいった。

「さあ、お兄様行きましょう」
 エオノラは不機嫌なゼレクの手を引くとホルスト男爵のいる応接室へと向かった。