「あなたはずっとこの庭園を気に入ってくれているな」
「はい。だってフェリクス様の愛情が一番詰まった場所ですから。見ているとなんだか幸せになれるんです」
 するとエオノラの返事に応えるようにルビーローズのリンリンという嬉しそうな音が風に乗って聞こえてくる。
 フェリクスはそうかと呟くと口元に手をやって考え込む素振りを見せる。

「それなら、結婚後はここに住もう。私も、このまま庭園を手放すのは惜しいと思っている」
「え!? でもそんなこと勝手に決めても大丈夫ですか?」
「ラヴァループス侯爵位を拝命した時からこの屋敷は私のもの。私に決める権限がある。……まあ、父上の許可は必要だが」
 フェリクスはそれからすぐに後ろで控えていた従者を呼ぶとあれこれと指示を出した。
「婚約式を行うまでには屋敷の改修に取り掛かりたい。死神屋敷と揶揄されていただけあって屋敷の中はまあまあ酷い有様だ」
「すぐに手配致します」
 従者は首肯してから下がると早速仕事に取りかかり始めた。


「あの、そんなに急な話を出しても良いんですか?」
「急な話じゃない。私たちの結婚はもう一年後だ。それまでにここを綺麗にしておかないと、王家に嫁いだというのに不憫な思いはさせたくない」
 二人の婚約式は半年後に予定されている。その一年後には結婚式もあり、あと少しすれば慌ただしい日常が待っている。
 今後の日々に想像を巡らせていると、急に視界が暗くなった。いつの間にかフェリクスが目の前に立っている。