そしてアリアはエオノラと背格好は似ていても顔立ちはまるで違う。彼女はあどけなさが残る可愛らしい顔立ちで、くるんと上を向いた睫毛やくりくりとした灰色の瞳は魅力的だ。そして話をすればころころと表情を変えるので一緒にいて飽きない。

(それに比べて私は……)
 エオノラは自身について振り返ってみる。顔立ちはそれなりに整ってはいるが、父親譲りの涼しげな青紫の瞳は、悪く言えば相手にきつい印象を与える。会話をしても機転の利いた返しはできないし、愛嬌のある態度も取れない。

 二人の中で一人を選ぶなら、絶対に会話をして楽しい方を選ぶだろう。
 答えを導きだして納得がいったエオノラは額に手を当てて溜め息を吐く。
 ふと、二人の抱擁が脳裏に浮かび上がった。
 慌てて頭を振って情景を霧散させたが、遅かった。胸の奥がずきずきと痛み、エオノラは眉根をぴくりと動かしてしまう。

 するとゼレクが察したのか、優しくエオノラの手を握ってくれた。
「今回のことは残念だった。俺の見る目がなくてエオノラを傷つけてしまった。すまない」
「いいえ、お兄様。お兄様のせいじゃないから謝らないで」
 キッフェン伯爵から婚約の申し込みがあった時、父に後押しをしたのはゼレクだった。パブリックスクール時代に同じ寮の後輩としてリックとはそれなりに面識があり、ある程度人となりを知っていたのだ。

「良いやつだと思ってたのに。まさかあそこまで軽薄な馬鹿だったとは……」
 普段、温厚な兄が静かに怒りの炎を燃やしている。
 エオノラはなんと言葉を掛けて良いか分からず尻込みしていると、怒りの収まらないゼレクが不穏なことを口にした。
「キッフェン伯爵には悪いが暴漢を使ってリックへ闇討ちするというのはどうだろうか。それとも泥酔させて全裸にしてから街の広場の柱にくくりつけてやろうか」
 真顔で、しかもドスの利いた声で呟くゼレクにエオノラは慌てて口を開いた。
「物騒なこと言わないで! 私に魅力がなかったの。それにこれから社交界で活動するんだからまだ出会いはあるはずよ」
 宥めるとゼレクは少し困った表情を浮かべた。