完全な化け物となったクリスがエオノラに覆い被さった後、手に持っていたルビーローズの枝が紅色の強い光を放って花を咲かせた。
 その瞬間、クリスの身体からは黒い靄が逃げだすように離れていった。最終的に靄は霧散してクリスは化け物から人間の姿に戻ったのだという。

「ルビーローズの花は咲いた。君のお陰でこれまで続いていた呪いを解くことができた。……俺が長年、魔術院で研究しても駄目だったのに呪いが解けるとは。未だに信じがたい。結局、呪いはどういうものだったんだ?」
 エオノラは意識を失っている間に見聞きした出来事をクリスとハリーに話した。
 今まで呪いが解けなかったのは、皆が狼神の言葉を深読みして惑わされていたからだとエオノラは思う。

 その血を以て守り花を咲かせよの意味はラヴァループス侯爵の血ではなく、彼を愛する人の血が必要だった。狼にとって愛する相手を番と呼ぶ。番を見つけなければという意味も、どんな姿をしていても心から愛してくれる人を見つけろという意味で、その人の血によって呪いが解けるということだったのだ。


「ふむ。エオノラの話を聞いていると、そういう風に捉えることもできるな。……あとは君の力についてもっと知りたい。石の声が聞こえるというのはどういったものなんだい? あと君の祖母の日記帳に呪いのことが書かれていたと言うけど、祖母も同じ力を持っていたのかな?」
 興奮気味にいくつもの質問を投げかけてくるハリーにエオノラはそこまでと言わんばかりに手を前に突き出した。

「ハリー様、先にお伺いしたいことがあります」
「なんだい?」
「私には石の声が聞こえる力がありますが、私は魔術院で一生を過ごすなんて、決してしたくありません。力についてお話ししても構いませんが、魔術院へは秘密にして頂けませんか?」
 魔力持ちであることが露見してしまえば、否応なしに魔術院へ連れて行かれてしまう。それだけは絶対に嫌だ。
 するとエオノラを抱き締めていたクリスが、エオノラを庇う様にハリーの前に立ちはだかった。