エオノラは頭痛を覚えて目覚めるとゆっくりと身体を起こした。
「クリス様……」
額を押さえながら顔を上げる。しかし、目前に広がっているのはどこまでも無機質な白い世界だった。
ここはどこだろう。これが世に言う死後の世界なのだろうか。
立ち上がって適当に歩いてみるが、一向に果てにいきつかない。
「私は死んでしまったの? それなら無事に呪いは解けたのかしら?」
死ぬ覚悟はできていたが、最後に呪いが解けたかどうか見届けられなかったのは心残りだ。頭を垂らしていると後ろから温かな風が吹いてきた。
振り返れば目の前には一匹の巨大な白い狼がエオノラを見下ろしている。
エオノラの身長よりも倍はある巨体で、口を開ければ丸呑みされそうだった。
しかし、不思議と恐怖を感じることはなく、心はどこまでも平静としていられる。じっと見つめていると狼が琥珀色の瞳を閉じて頭を下げてきた。
「数百年にも及んだ呪いを解いてくれてありがとう。其方のお陰で漸くかの土地から最後の罪源を浄化することができた」
「あなたはもしかして、狼神様ですか? ええっと、最後の罪源とはどういうことですか? 私が知っている話では、罪源はすべて浄化されたはずです」
狼神は土地の浄化を終えて力をなくし、天寿を全うしたはずだ。罪源が残っていたなんて聞いたことがない。
問いかければ、狼神は悠久の時の中でずっとこの瞬間を待ち焦がれていたように目を細める。