「私は無実です。ラッカム嬢、セルデン様の話だけを信じるなんて不公平では? 他に誰か証言のできる人はいらっしゃらないのですか?」
 エオノラが指摘するとラッカム嬢の眉間の皺がさらに険しくなった。
「まだしらを切るつもりでいるだなんて、とんだ恥知らずですわね。あなたみたいな、男なら誰でも誑かすような尻軽女、王宮じゃなくて娼館の方がお似合いですわよ」
 苛烈な発言にエオノラがたじろいでいると、突然後ろから肩を叩かれた。
「こんなところにいたのかい」
 後ろを振り返ったエオノラは視界に入った人物に思わず息を呑んだ。

 一拍置いてから慌てて挨拶をする。
「こんばんは。今宵は素敵な舞踏会に参加できて光栄に思います――ハリー様」
 その人物とは、第二王子のハリーだった。
 彼は「よっ!」となんとも軽い挨拶と共に白い歯を見せてくる。
 ラッカム令嬢と取り巻きも慌ててハリーに挨拶をしたが、彼はそれを無視してエオノラに話し掛ける。
「招待状リストに目を通していたら君の名前があったからね。きちんと顔を出そうと思ってやってきたんだ」
 爽やかな笑みを湛えるハリーは漸くラッカム嬢と取り巻きの方に視線を移すと、エオノラを庇うように二人の前に立ち、腰に手を当てる。

「さて、ラッカム嬢と言ったかな。この場を借りて君の間違いを正させてくれないか?」
「第二王子殿下、間違いとは一体何のことでございましょう?」
 先程まで威勢が良かったのに、ラッカム嬢は借りてきた猫のように大人しい。それでも、その表情には不服そうな色が浮かんでいた。
「エオノラ嬢はここ暫く、それこそパトリック・キッフェンと婚約解消後はずっと俺の下で仕事を手伝ってくれている。だから君が言うように男と密会する暇はないんだ。信じられないなら彼女と交わした契約書の書面を見せようか?」
 その発言に周囲からどよめきが起きる。