すると、クゥが悲しく鳴いてエオノラの膝の上に顎を乗せてきた。こちらに向ける眼差しは慈愛に満ちたものだった。
 ――気丈に振る舞わなくていい。ここには泣くことを咎める人はいないのだから。
 クゥが何をどう思っているのか分からない。しかし、エオノラにはクゥがそう言っているように見えた。
 再び目頭が熱くなり、引っ込んでいたはずの涙が目尻に溜まっていく。
 エオノラはくしゃりと表情を歪めると、椅子から降りてクゥを抱き締め、声が嗄れるまで泣き続けた。

 ずっと泣くのを、引きずっているのを、みっともないことだと思って我慢してきた。慰めてくれる家族も友人もいる。しかし弱音は吐けなかった。
 いつまでも悲しんでいれば、アリアが非難の的になってしまう。何も知らずにリックを好きになってしまった彼女が、責められるのを見たくなかった。
 本当ならゼレクに頼んで、社交界に自分の悪い噂が立たないよう根回ししてもらうことだってできた。踏み切れなかったのは、これまで独りぽっちだったアリアがやっとの思いで掴んだ幸せを自分のせいで台無しにすることができなかったからだ。
 可愛い従妹が傷つく様は見たくなかった。
(もう、気丈に振る舞わなくても良いのよね……)
 だってここには世間体を気にする相手は誰もいない。いるのは自分と狼のクゥだけだ。
 エオノラは漸く心に溜まっていた黒い感情を吐き出せた気がした。