スカートの裾を上げて雑草を除けながら音のする方へ進んでいく。屋敷の外廊下を発見したのでそこを歩いて行くと徐々に目の前の景色が変わっていった。
先程まで外壁のヒビや柱に絡まっていたツタなどの荒廃ぶりが顕著だったにも拘らず、今はそれがまったくない。掃除が行き届いているとは言えないが、小綺麗にされているのは確かだ。そして廊下の角を曲がると、遂には美しい庭園が現れた。
綺麗に刈られた樹木と数種類のバラの樹が整然と並んでいる。エオノラは庭園に足を運ぶと中を見て回った。
今は早春でバラの花が咲き始めるのはもう少し先。しかし、この庭園のバラの樹には花がついていて、どの花もとても美しく芳醇な香りを放っていた。
(この時期にバラを咲かせるのはとても難しいはず。庭師が丹精込めて育てたバラだって一目見て分かるわ)
バラの美しさに圧倒されたエオノラは手を合わせて暫くその場に佇んだ。一頻りバラを堪能し終わると、ふとあることに気がついた。
「そういえば、ここに来るまで誰にも会わなかったわ」
これだけ大きな屋敷なら誰かと鉢合わせしてもおかしくない。そのはずなのに誰にも遭遇しなかった。
生活音が聞こえてこないか耳を澄ませてみるも、辺りはしんと静まり返っている。聞こえてくるのは石の音だけだ。
途切れ途切れだった微かな音は、囁き声ほどの大きさで助けを求めている。
(これまで聞いたことがないくらい悲痛な音ね)
人気がないのも気になるが、一先ず石のもとへ向かわなければ。
いてもたってもいられなくなったエオノラが歩き出そうとすると、突然何かが目の前を横切った。