窓の外を見ると、昨日の快晴とは一転して遠くの空には灰色の分厚い雲が浮かんでいる。このままいけば、昼前には雨が降り出しそうだ。
イヴが起こしに来るよりも先に目が覚めたエオノラは、カーテンを開いて窓の外を眺めていた。
(今日は早く屋敷に戻った方がよさそうね。濡れた姿で帰ったらイヴが心配して大騒ぎしそうだし、そうなるとなかなか自由にさせてもらえないから)
きっと風邪をひいたら大変だと騒いで熱々のお風呂に入れられた挙げ句、暖炉の前の肘掛け椅子に座らされて、苦い薬を飲まされるだろう。
過保護な彼女の行動を想像して苦笑していると、当の本人がお茶を乗せた銀盆を持って部屋の中に入ってきた。
「おはようございます、お嬢様。今日は雨が降りそうなので気分が良くなるハーブティーをお持ちしました」
「いつもありがとう」
長年仕えてくれているとあって、イヴはエオノラの体調や気分を熟知しており、それに合わせて毎朝種類の違うお茶を用意してくれる。
その何気ない気遣いと優しさが心に染み渡り、エオノラの心を温かくした。
淹れ立てのハーブティーを飲んだエオノラは、早速着替えを手伝ってもらった。
今日の装いは小さな花束がプリントされたブラウスに膨らみが少ない瑠璃色のスカートだ。
「いつ見ても我が家のお嬢様は大変麗しいです! あ、そうでした。修理に出していた柘榴石のペンダントが今朝届きましたよ」
イヴが銀盆の上に載せていた箱持ってきて蓋を開けてくれた。
チェーンは一新されて柘榴石のペンダントが収まっている。柘榴石はクリーニングのお陰でくすみが取れ、本来の輝きを放っていた。
「やっと戻ってきたのね。嬉しいわ!」
その言葉に応えるように、柘榴石が音を鳴らした。柘榴石も戻って来られて嬉しいと言っているようだ。
エオノラは音を耳にして目を細める。