これ以上留まっていい場所ではない。それに招待客に主役がいないことを気づかれて騒ぎになっては大変だ。
「きっと私がいないことが分かればお兄様が心配するわ。だけど……」
 足はちっとも家の方へ動こうとしない。
 頭では分かっていても、感情がついていかない。

 リックとアリアにもう一度会うなんてごめんだ。毅然とした態度でいられる自信はない。
 それに死神屋敷から聞こえる鈴のような音が先程からどうも気になって仕方がない。途切れ途切れに聞こえてくる音はどこか悲しげで助けを求めているようにも聞こえる。
(石の音が聞こえる力を持つのは私しかいないし、助けを求められているのに放ってはおけない。でも、死神屋敷に入ったら二度と生きて戻れないかもしれないわ)
 しかしそう思った途端、また切ない鈴の音が聞こえてきた。

 あの音を、本当に無視してもいいのだろうか。
 エオノラは胸に手を当てて一度深呼吸をする。
「……これは私にしかできないことだから……」
 覚悟を決めたエオノラは死神屋敷の正門を抜けて音のする方へと歩き始めた。