エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 夜になり、キッチンでコーヒーを淹れる。
 隣には文くんが立っていた。

「ふうん、今日は姉さんもいたんだ」
「うん。真美ちゃんに言われて気付いたんだけど、私のお義姉さんになったんだよね、真美ちゃん。これまでもお姉ちゃんみたいに思ってたとはいえ、やっぱりちょっと感覚が違う。うれしい」

 フィルターの外側からゆっくりお湯を注ぎながら言うと、文くんは「そう」と優しく返した。
 私がふたり分のコーヒーを淹れ終わると同時に、横からぽつりと聞こえる。

「式……しようか?」
「え?」

 思わず手を止め、文くんを見る。

「実は母さんから何度か、責任があるんだからちゃんと考えろって連絡きてたし……今日もそういう話題出たんじゃない?」
「う、うん……」
「あー、いや。親に言われたからってわけじゃなく……ミイの気持ちに合わせたいと思ってる」

 彼は苦笑交じりに続ける。

「俺に遠慮してるのかなとか、特殊な始まりだった上、ここまで急展開だったからそこまで気持ちが追い付いてないかもとか思っていたんだけど」

 私はきょとんとした後、「ふふ」と笑ってしまった。

「んー、確かに展開は急だったよね。私もまだ実感ない時がある。でもね。小さい頃はいつも一緒にいてくれてたし、大きくなってからも定期的には顔を合わせて、優しくし接してくれて……」

 これまでの思い出や三か月前に帰国してきてからの記憶を辿り、顔が綻ぶ。

「実感はまだ持てなくても、違和感はないんだ」

 一緒にいる時間を重ねるにつれ、一緒に過ごした昔の感覚を思い出して自然に現在の生活に溶け込んでく。

 文くんは昔から変わらない。
 余裕のある雰囲気で見守ってくれる感じとか、私を優先して考えてくれるところとか。

 ずっと前から大切にはされてきてた。
 その感情の理由が『妹』から変化してくれたのが未だに信じがたいんだと思う。

 すると、文くんは私の手元に視線を落とし、ふいに私の左手を掴んだ。
 びっくりして文くんを見上げると、微かに口角を上げている。

「今度の休みは出かけようか」
「え? 私はもちろん大丈夫だけど……仕事は平気なの?」
「うん。指輪見に行こう」

 まったく予期せぬ提案をされて、思考が一瞬止まる。

 大きくさせた瞳には、少し照れた文くんが映し出される。