エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 質問に答えてくれたものの、私にはさっぱり。
 渋い顔をして首を捻る。

「んん……? ごめん、よくわからない……。真美ちゃんから私にメッセージなんてなにもなかったよね?」
「してないよ。だけど、文尚は絶対ミイちゃんにも私から同様の男の人紹介するような誘いがあったって思ってるはず。だってふたりの偽装関係を知った後、あいつにきつく言ったんだもの『ミイちゃんの大切な時間、独占してたらダメだ』って」
「そんな! だって私の方から」
「うんうん。それでも私はあえて知らないふりしてそう伝えたの」
「えっ……」

 驚き固まる私を見て、真美ちゃんは「ふふっ」と笑った。

「誰かに取られるって思った時、自分の気持ちがどう動くか。男って単純なのよ~。まあ賭けではあったけど、私はうまくまとまると思ってたから」

 つまり、文くんを間接的に嫉妬させてみたってこと……?

 真美ちゃんが『考えがある』って言い残して帰っていったのは、そういう意図があったんだ。
 そんな策略、私には到底思いつかないし、うまく相手を焚きつけたりできない。

 感嘆の息を漏らしていると、彼女は悪びれもせずに満面の笑みを見せた。

「追い込まれて初めて気付くなんて、手が掛かるわよね」

 この事実を文くんが知ったらどうするかな。きっと、怒るよね。
 まあ、と言っても、激昂するわけじゃなく、ひとこと恨み節をぶつけるくらいかな。

 文くんのもとに頻繁に届く真美ちゃんからのメッセージには、私も少なからず影響を受けて、家を飛び出しちゃったんだよね。真美ちゃんの策略に、別の形で私も翻弄されてたって話だ。

 じゃあ私たち、真美ちゃんの手のひらで転がされていたってこと?

 茫然としていたら、真美ちゃんが慌てて私の顔を覗き込み、手を握った。

「あっ。文尚に女の人紹介して気分悪かったよね。本当の本当にごめんね」

 眉根を寄せて謝られ、慌てて頭を横に振る。

「ううん。今いろいろ話してくれたから大丈夫。それに、結果的に本当に真美ちゃんのおかげで……その」

 照れくさくて言葉の先をなかなか口に出せずもじもじしていたら、真美ちゃんが続きを言ってくれる。

「偽装じゃなくなったもんね」

 第三者にはっきり言われて、『ああ、結婚したのは現実なんだ』と少し身に染みた。
 同時に、やっぱり恥ずかしくて顔が熱くなる。瞬間、ぎゅっと抱きつかれた。

「可愛い~! ミイちゃんが義妹かあ~。うれしいなー」

 頭をわしゃわしゃ撫でられて、面映ゆい気持ちになった。