エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「まず、私は文尚に別の女性に気を向かせようとしたわけじゃないの。ごめんね。誤解させるとは自覚してた」
「え」
「だけど、ほら。ミイちゃんって素直だから、初めからいろいろ言っちゃうと顔に出そうだと思って。それで私の独断で動いたの」

 私は目を白黒させる。
 彼女は艶やかな唇に弧を描き、柔らかい眼差しをこちらに向けた。

「ミイちゃんが教えてくれたでしょ? 文尚はミイちゃんが『困って必要に迫られた時は入籍しても構わない』って言ってたって。でも、自分のためにミイちゃんを巻き込むのは嫌みたいだって」
「あ……うん」

 ものすごく落ち込んでいた時の話だ。
 文くんが困ってるなら私も……って、提案したことを、彼にあっけなく断られたんだよね。

「あれを聞いた時にね。なんとなくだけど、文尚もまんざらじゃないんじゃないかと思っちゃって」

 真美ちゃんの見解を聞き、さらに驚いた。

 その時の私とはまったく逆の考え方だ。
 だけど、拒絶した文くんからはそんな風に感じ取れなかったのに。

 信じられない気持ちで真美ちゃんを凝視する。
 真美ちゃんは両手を横に軽くついて、空を見ながら言った。

「昔からミイちゃんのこと大事にしてたのは知ってる。でも、入籍するしないとか、そこまで面倒見るつもりになれるのは、特別な感情がちょっとでもないと提案しない。私だったらね」

 言葉が出て来ない。
 同じようなことは本人から確かに言われた。『誰でも受け入れてたわけじゃない』って。

 だからって、そこに特別な感情が含まれてるなどとは全然……。姉である真美ちゃんだから気付けたってこと?

 真美ちゃんは長い髪を掻き上げて、くすくすと笑いを零す。

「まして文尚は自分を犠牲にしてまで他人に尽くすタイプじゃないから。それで少し……カマかけてみたっていうか」
「え? ど、どんな?」
「女性を紹介するメッセージなんか、いくら送ったってあいつの答えは『NO』だって初めからわかってたよ。あれは紹介が目的じゃなくて、私が同じようなメッセージをミイちゃんにも送ってるって文尚に思わせたかったの」