エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「文くんになにかあったら……」

 つい不安が溢れ出て言葉に詰まる。

 感情的になって涙が出そうになったのを、どうにか気持ちを制御する。
 私はすうっと大きく息を吸って心を落ち着けると、笑顔を作った。

「私だけじゃなくて、由里子さんも匠さんも真美ちゃんも、うちの両親も心配しちゃうから。あまり無理しないでね」

 私の言葉を受けた文くんは、ちょうど信号待ちになって車を止めた際に柔らかく微笑んだ。そうして、軽くポンポンと頭に手を置いて、再びハンドルを握る。

 きっと文くんにとって、私の心配は無用だ。
『俺のことより、自分の心配をしなさい』って気持ちだと思うから。

 それからマンションに着いて、先にお風呂をいただいた。私はタオルで髪を拭きながらリビングへ向かう。

「文くん、お待たせ。次どうぞ」
「ああ。じゃ、行ってくるかな」

 文くんはそう言って、手に持っていたスマートフォンをローテーブルに置いてソファを立った。
 バスルームへ行った文くんと入れ替わりで、今度は私がソファに座る。

 毛先を軽くタオルで拭いていたら、目の前のスマートフォンが振動した。反射で視線を向けた瞬間、見覚えのあるアイコンに凝視する。

 これって……今日金子さんのスマートフォンにもあった……マッチングアプリのアイコン?

 しかも、そのアプリ内からのメッセージだ。
 一文しか表示されていないけれど、メッセージの送信主の名前は明らかに女性もの。

 一瞬にして指先が冷たく感じる。

 当然、勝手に触れられないため、数秒後にはでぃずプレイが真っ黒になってしまった。が、その後も続けて二度ほど同じアイコンで通知が鳴る。

 私は音が聞こえるのが怖くなって、逃げるようにリビングを出て部屋に籠った。


 その後、入浴を終えた文くんと雑談はしたけれど、ほとんど頭に入って来なかった。
 もちろんアプリの話題を振れるはずもなく、結局私は朝まで寝付けなかった。