エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「なるほど……。少し前からそういうのが普通になってるんですよね、きっと。若い子も友達を探す感覚で利用してたりするのかな」

 私自身、すでに学生ではなくなって数年だけど、主人公たちの年代が十代の物語を書く仕事柄、リアルな情報は必要だし興味がある。

 私が興味を示すと、結城さんは私の仕事スイッチを察してくれたのか、打ち合わせ時のように反応する。

「かもしれませんねえ。そういうのも清く正しく使われるならいいですよね」
「ああ。それなら、このアプリなんかは最近人気でー」

 そこにまた、軽いノリで割って入ってきた金子さんは、自分のスマートフォンのディスプレイを私たちに見せてきた。

 一瞥する私の隣で、結城さんはディスプレイを凝視して声を上げる。

「ちょ……この画面のアイコン、ほとんどそれ系じゃない?」

 彼女の指摘を聞き、今度は私も目を凝らして見てみる。

 マッチングアプリにまったく詳しくはないけれど、アイコンの模様とか名称などからそれらしきアプリかなというのは薄々わかる。確かに一画面いっぱいに同類のアプリばかりだ。

「ん? いやほら。とりあえず使ってみなきゃわかんないし。整理してないだけで、今使ってるのはこの辺りだけだよ」

 苦笑交じりに言い訳っぽく言葉を並べる金子さんに構わず、結城さんがひとつのアイコンを指さした。

「あ、これよくネットの広告で見る!」
「本当ですね。マッチングアプリナンバーワンって謳ってる……」

 ピンクとブルーのハートが描かれているアイコンは私でも見たことがある。

 つい結城さんと並んでディスプレイに目を落としていたら、金子さんは私の肩にポンと手を置く。

「ほら、宝生さん! こういうなんでもない話でも仕事に繋がることもあるだろうし、二次会でゆっくり雑談の続きでもしようよ。せっかくだしさ!」
「あ~……」

 さらに二次会参加へ押された私は、返答に迷う。

 飲み会的な場に慣れていないし、親しい相手は結城さんしかいないのもあって気疲れするとわかってる。
 だけど、金子さんはいい人だし、あまり頑なに断るのも失礼なのかもしれない。原稿も今のところ順調ではあるし……。

 文くんからもらった腕時計をちらりと見る。

 時間は九時前。二次会って二時間くらいかな? 日付が変わる前には帰れるよね。

 いよいよ自分の気持ちを押し込めて、『わかりました』と答えようとした刹那。