エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 そうして数日後のパーティー当日。

 滅多に着ないシックなデザインのワンピースを引っ張り出して、自分なりに着飾ったつもりでやってきた。
 少々目立つだろうかと心配したものの、会場に一歩踏み入れれば私なんて地味すぎてまったく気にする必要はなかった。

 初対面の人たちがほとんどで、挨拶だけで目が回った。

 どうにか笑顔を絶やさずに過ごし、ようやくパーティーが終わって、ぞろぞろと会場を後にする。私は結城さんと、結城さんの同期の男性編集者、金子(かねこ)さんと行動をともにしていた。

 ロビーを歩き、エントランスに足を向ける。

「宝生さん、ぜひ二次会いかがですか?」

 結城さんに誘われ、こういった会が得意じゃない私は言い淀む。

「あぁ……うーん、せっかくですけど……」
「えっ。行かないの? 二次会はさっきみたいに堅苦しい挨拶とかないから楽しいよ」

 すかさず会話に割って入ってきたのは金子さん。

 彼とは一度、出版社を訪問した際に挨拶を交わした程度。まともに言葉を交わしたのは今日が初めてだった。

「ちょっと。馴れ馴れしい話し方やめなさいっていつも言ってるでしょ」

 結城さんが注意しても、慣れているのか金子さんは反省する素振りも見せずにケタケタと笑う。
 そんな彼に、結城さんがさらに憤慨するのを見て、思わず笑いが漏れた。

「ふふ。金子さんって、フランクで親しみやすい方なんですね」

 自分から話題を振るのが苦手な私からすると、明るく会話を繋げてくれる人はありがたい時がある。

 話をしながら人の流れに乗って、エントランスを潜る。ずらりと並んだタクシーに、人々は順に乗り込んでいた。

 私たちは列の最後尾について、会話を続ける。

「金子の親しみやすさは合コンやマッチングアプリで相当手慣れたって感じよねえ?」

 合コンにマッチングアプリ……。なるほど、そういうもので人との交流の仕方を身につける人もいるんだ。
 でも、それって相手は女性だよね。複数人の女性と……って考えちゃうのは私だけじゃないはず。

 現に結城さんは軽蔑にも似た視線を送っている。
 しかし彼はそれをものともせず笑って私を見た。

「宝生さん、今固定観念に捕われたイメージを浮かべたでしょ? 別に彼女作るためだけじゃないからね。特に今のマッチングアプリってやつは」
「そうなんですか? す、すみません……」
「そうそう。友達とか同じ趣味を持つ同士とか見つけたり、目的は十人十色。自由さ」

 肩を竦めて謝るも、金子さんはまったく怒っていなく、ニッと口の端を上げて得意満面に言った。

「金子の自由とか、なんか都合よく扱われそうで怖いわ」
「ひどいな。女性をぞんざいに扱ったりしないよ」

 ふたりのやりとりは夫婦漫才みたいで、見ていて飽きない。
 私は微笑ましく眺めつつ、改めて感嘆の声を漏らした。