今日はめずらしく文くんは職場から電話がないと言って、夕方からものんびりしていた。
そのためか、夕食の支度から片付けまで一緒にやってくれて、今日一日私にとってものすごく充実した日になってる。
「ミイ、ごめん。袖捲って」
「えっ」
食器を洗って濯いでいる文くんに言われ、慌てて彼のそばにいき、右袖に触れる。
「これでいい?」
肘まで捲り上げ、その体勢のままパッと視線を上げたら思いの外距離が近くて飛び退いてしまった。
驚いたとはいえ、あからさまな態度を取ってしまったと反省する。
「ごめん。横着した。自分でやればよかったよな」
文くんが気を遣って笑ってくれてるのがわかる。
私は慌てて口を開く。
「ううん。違う。うれしいの! なんていうか、存在を自然と受け入れてもらえてる感じがして! 今日は一日本当に新婚みたいで楽しかった、し」
ついうっかり頭の中の文言がそのまま口から出してしまった。
私はさらに慌てふためき、無理矢理今の発言をなかったことにして話を変える。
「あっ、コ、コーヒー淹れようかな。この間買ってもらったカップ、まだ使ってなくて。豆もまだ開けてないし」
「そういや、まだ箱に入ったままだな。俺に遠慮しないで使えばよかったのに」
「んー、でもやっぱり初めは文くんと一緒がよかったから」
私はカップボードの扉を開け、未開封のカップを取り出した。すると、文くんがスッと手を伸ばし、カップを洗ってくれた。
「ミイの淹れるコーヒーいつも美味しいよな。どうやってんの?」
「そんなに特別なことしてないよ。なるべく気持ちに余裕を持って、コーヒーのことだけ考えて淹れてる感じ……?」
どぎまぎして漠然としか説明できない。曲がりなりにも文章を書く仕事をしているのに、と少し落ち込んだ。
その時、ダイニングテーブルからメッセージの着信を知らせる音がした。
この音は私のスマートフォンだ。
キッチンを出てスマートフォンを確認する。相手は結城さんだった。
表示をタップして本文を確認する。
「あっ」
「どうした?」
「あ、ごめん。なんでもないの」
咄嗟に声を出してしまったせいで、文くんが私を気にしてる。
私は肩を窄めて答える。
「来週の予定、担当さんから確認のメールきて思い出したの」
「仕事の予定ってこと?」
「んー、そうなるのかな。私がお世話になっているレーベルが今年創刊五周年だから、パーティーを開くんだって。私のデビューは創刊と同時だったのもあるし、ぜひ参加してほしいって言われてて」
大きく環境が変わって完全に忘れてた。
「あんまり大きなパーティーとか慣れてないし、乗り気じゃなかったんだけど、担当さんに、そういうのも経験になるよって言われて」
「いつ?」
「来週の祝日の夜だって言ってた気がする」
メールを遡って確認すると、やっぱり祝日の六時半からってなってる。
「祝日か。確か俺もその日は仕事だったな」
「そっか……あ。お湯沸いたね。コーヒー淹れよう」
私は話を終わらせてコーヒーを用意する。
新品のカップが並ぶ光景に面映ゆい気持ちと、ほんの少し切なさも感じつつ、その夜は穏やかな雰囲気で過ごした。
そのためか、夕食の支度から片付けまで一緒にやってくれて、今日一日私にとってものすごく充実した日になってる。
「ミイ、ごめん。袖捲って」
「えっ」
食器を洗って濯いでいる文くんに言われ、慌てて彼のそばにいき、右袖に触れる。
「これでいい?」
肘まで捲り上げ、その体勢のままパッと視線を上げたら思いの外距離が近くて飛び退いてしまった。
驚いたとはいえ、あからさまな態度を取ってしまったと反省する。
「ごめん。横着した。自分でやればよかったよな」
文くんが気を遣って笑ってくれてるのがわかる。
私は慌てて口を開く。
「ううん。違う。うれしいの! なんていうか、存在を自然と受け入れてもらえてる感じがして! 今日は一日本当に新婚みたいで楽しかった、し」
ついうっかり頭の中の文言がそのまま口から出してしまった。
私はさらに慌てふためき、無理矢理今の発言をなかったことにして話を変える。
「あっ、コ、コーヒー淹れようかな。この間買ってもらったカップ、まだ使ってなくて。豆もまだ開けてないし」
「そういや、まだ箱に入ったままだな。俺に遠慮しないで使えばよかったのに」
「んー、でもやっぱり初めは文くんと一緒がよかったから」
私はカップボードの扉を開け、未開封のカップを取り出した。すると、文くんがスッと手を伸ばし、カップを洗ってくれた。
「ミイの淹れるコーヒーいつも美味しいよな。どうやってんの?」
「そんなに特別なことしてないよ。なるべく気持ちに余裕を持って、コーヒーのことだけ考えて淹れてる感じ……?」
どぎまぎして漠然としか説明できない。曲がりなりにも文章を書く仕事をしているのに、と少し落ち込んだ。
その時、ダイニングテーブルからメッセージの着信を知らせる音がした。
この音は私のスマートフォンだ。
キッチンを出てスマートフォンを確認する。相手は結城さんだった。
表示をタップして本文を確認する。
「あっ」
「どうした?」
「あ、ごめん。なんでもないの」
咄嗟に声を出してしまったせいで、文くんが私を気にしてる。
私は肩を窄めて答える。
「来週の予定、担当さんから確認のメールきて思い出したの」
「仕事の予定ってこと?」
「んー、そうなるのかな。私がお世話になっているレーベルが今年創刊五周年だから、パーティーを開くんだって。私のデビューは創刊と同時だったのもあるし、ぜひ参加してほしいって言われてて」
大きく環境が変わって完全に忘れてた。
「あんまり大きなパーティーとか慣れてないし、乗り気じゃなかったんだけど、担当さんに、そういうのも経験になるよって言われて」
「いつ?」
「来週の祝日の夜だって言ってた気がする」
メールを遡って確認すると、やっぱり祝日の六時半からってなってる。
「祝日か。確か俺もその日は仕事だったな」
「そっか……あ。お湯沸いたね。コーヒー淹れよう」
私は話を終わらせてコーヒーを用意する。
新品のカップが並ぶ光景に面映ゆい気持ちと、ほんの少し切なさも感じつつ、その夜は穏やかな雰囲気で過ごした。



