エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 それから、文くんはシャワーを浴び終えて今食事をしている。
 私はと言うと、文くんにバレないように時折斜め向かいの彼を見つつ、仕事をしていた。

 彼の目線がこちらに向く予感がして、さりげなくパソコン画面に焦点を戻す。

「ミイはさ。どんなの書いてるの?」
「えっ。うーんと、大きく括るとエンタメ小説……かなあ。でも中高生向けだからライトノベルとも言えるかも」
「へえ。今度本屋で探してみようかな。本名で書いてるの?」
「み、見なくていいから! なんていうか……心の中覗かれるみたいで恥ずかしい」

 全力で首を横に振るも、文くんは意外にも食い下がる。

「なんで。だって、すでに多くの人に読まれてるのに」
「素顔を知ってる相手は別だよ」

 私の即答に、文くんは空を見つめて考える。

「んー、一理あるか。俺も仕事してるとこはあまり見られたくないしな……なに?」
「うん。ふと文くんが仕事してる姿見たいなあって」

 当然だけど、私はありがたいことに大きな病気を患った経験もないし、文くんの働いている姿を見る機会はなかった。
 だけど、想像なら何度もしてきた。父が医師だからイメージは湧きやすかった。

 きっとすらりとした長身の彼は真っ白な白衣を着こなしていて、仕事に……患者に真摯に向き合っている姿は最高に魅力的だと思う。

 そういう一面を見られるのは仕事仲間か、患者か、家族か。
 結局私はそのどれにも当てはまらないから、叶わない願いなんだろうけど。

 私が心の中で失笑していると、文くんがからかい交じりに言う。

「だったら、ミイの本も見せてくれないと」
「それはちょっと……。ほら。多分、文くんにしたら面白くないと思うし」

 頑なに拒絶するのは、本当に恥ずかしいからだ。

 作品の中は、どうしても私の感情を反映させてしまいがち。無意識に自分の想いを登場人物それぞれに注ぎ込んでいる分、どれも私の分身で……随所に散りばめられているはずだから。

 中には恋愛要素が含まれていたりするし、私が彼を想ってきた感情も間接的とはいえ綴っていると思えばやっぱり気が進まない。
 気付かれることはないにしても、ちょっと切ない気分になりそうだもの。

「いつか、その時が来たら」

 あまりに長くて重くなり過ぎたこの気持ちが風化したら、堂々と『いいよ』って答えられる。
 それまでは、もう少し秘密にさせてほしい。

「わかった」

 文くんはニコリと笑ってそう言うと、食事を終えて食器をキッチンへ下げに席を立った。