エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 文くんが項垂れる理由が気になって心配で、私は食い入るように彼を見つめて続きを待った。
 彼は体勢をそのままに、ぼそっと口だけ動かす。

「ミイに迷惑だからって、結婚相手の候補者をものすごい送ってくる……メールで」
「えっ」

 どういうこと? 真美ちゃんは私の気持ちを知ってる。その上で文くんにいい人を紹介ってことは……暗に私じゃやっぱり釣り合わないとかうまくいかないって考えてのこと?

 ショックを受けていると、スマートフォンの通知音が鳴った。音でそれが文くんのものだとわかると、無意識に椅子の背もたれに掛けられたスーツの上着へ目が向く。

 文くんは顔を上げ、スマートフォンをポケットから取り出した。ディスプレイを一瞥するなり、口を開く。

「うわ。もしかしてまだあんの?」
「まだある……?」
「今言ってた、姉さんからの紹介攻撃」

 文くんはスマートフォンをテーブルに伏せる。その時にも、また一回音が鳴った。

「だ、大丈夫?」
「うん。返信するつもりないし。ただうんざりはするけどね」

 実際に彼が縁談を持ちかけられて鬱陶しそうにしているのを見て、なんだか自分が不甲斐なく思う。

「なんか……私がいる意味ってないよね。役に立てなくてごめんね」
「ミ――」
「あ。お腹空いてない? 食事の用意しようか?」

 居た堪れなくなった私は、話を中断してキッチンへ足を向ける。

「ありがとう」

 今晩は鰤の照り焼きと茄子焼き、ほうれんそうときのこのソテー、豚汁。旬の野菜のものが多い献立になった。

 鍋に火をかけ、レンジに皿を入れようとした時、キッチンの中まで文くんがやってきた。
 飲み物でも取りに来たのかな?と思ったものの、彼は私をジッと見るだけで動かない。

 どぎまぎしながら私も見つめ返す。すると、彼の瞳の奥にはどこかもどかしそうな感情が見え隠れしているように感じられた。

「どうしたの……?」

 私が微笑みかけると、文くんは視線を落として私の手から皿を取った。

「やっぱ夕食はシャワーの後に自分でやるからミイは仕事してて」
「わかった」

 文くんは優しい。

 だけどなぜだろう。私の居場所はここじゃないってやんわりと諭されている気がしてしまって、胸が苦しかった。