エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 あれから数日。

 私は相変わらず部屋に籠って仕事をしている。

 時折手が止まった際に視線を横に流す。
 部屋の隅には未開封のジグソーバズルが置いてあった。

 あの日、文くんと一緒に選んだ虹色の雲――彩雲のパズル。

 なんでも彩雲とはめずらしい雲の種類で、稀有な存在ゆえに古来から見られた際にはいいことがある、と言われているらしい。

 文くんはそんな彩雲と、イギリス留学中に出会った経験があって、その日は言い伝え通りとてもいい一日を過ごしたと話してくれた。
 そんな思い出話を聞いたら、私まで特別な感情を抱いてしまって、私たちはそのパズルを選んだのだ。

 しかし、あの日以降ずっと箱から出さず動かず、そのまま。文くんが忙しい人だから仕方がない。

 いつか一緒にできたらいいな、なんて淡い想いを抱いては意識を現実に引き戻す。

「……集中」

 敢えて口に出して戒める。パソコンに向き直った瞬間、スマートフォンが鳴った。
 ふいうちの着信に心底驚いて肩を上げて固まる。

 心臓がバクバクしている中、スマートフォンを手に取った。ディスプレイに表示されている発信主を見て、慌てて応答した。

「もしもし、宝生です」
Moon Arts(ムーンアーツ)の結城です。今、お電話大丈夫ですか?》
「はい!」

 私は背筋を伸ばしてはっきり答える。

 ぼんやりしていてすっかり忘れていた。今日、午後に結城さんと電話で打ち合わせの予定だったんだった。

 急いで頭を仕事に切り替え、今の原稿に必要な情報などの共有を時折雑談を交えて話し合う。
 小一時間が過ぎた時に、そういえば、と気付いて切り出した。