エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「誕生日プレゼント」

 私は文くんの言葉に驚愕する。

「誕生日って……。だってさっきカップを買ってくれたのに」
「あれはペアだったし俺のものでもあるから」

 茫然としてなにも返せない。時間が止まったかのように硬直していると、文くんが苦笑する。

「それは返されても俺は使えない。受け取って」

 そんなふうに困った顔で眉尻を下げて頼まれたら、受け入れるしかない。
 私はおずおずとプレゼントに手を置いて、上目で彼を見た。

「……ありがとう。開けてみていいの?」

 文くんは形のいい唇に笑みをたたえ、静かに一度頷いた。

 私はオーダーしたラテもそっちのけで、もらったプレゼントを丁寧に開封する。
 箱の中身は腕時計だった。

 小さめの四角い文字盤にいシルバーのフレーム、レザー製のバンドはブラックかと思ったら、よく見ると青みがあってネイビーだと気付く。

 それは、今日初めに訪れた雑貨店の中にあった時計コーナーで見たものだった。

 文くんが付けている腕時計と同じブランドのもので、ショーケースを一緒に見て回った際に目が留まった商品。

「これっ……どうして……あっ」

 文くんを追及しかけて、はっとする。

 時計のフロアの時、私お手洗いに行ったはず。もしかして、その短時間で用意してくれてたの?

 信じられない気持ちで文くんを見つめる。

「それ、ミイに似合うと思って」

 ……もう。狡い。反則だよ。
 ふいうちでこんなことされたら、胸がいっぱいになって涙も出そうになるよ。

 私は込み上げてくる感動を抑え、泣かないようにとグッと口の端を上げて笑った。

「ふふっ。ありがとう。最高の誕生日だ~」

 どうしよう。一緒に生活して、恋人みたいに誕生日を祝ってもらって……。ここで満足しなきゃダメってわかってるのに、心の隅では文くんを独占したいって思ってる。

 彼の特別になりたいって欲が顔を覗かせる。

「本当……ありがとう。一生大事にするね」

 私は聞こえるかどうかの微かな声でつぶやいて、箱の中の腕時計を見つめた。