エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 私はラテをお願いして、文くんはコロンビアブレンドをオーダーした。

 受け渡しカウンターで受け取ったラテを見た瞬間、感嘆の声が出た。

「うわあ。可愛い」
「ん?」
「クマ!」

 丸みのあるカップの中には溢れんばかりにいっぱいのラテがゆらゆらしていている。
 水面にはフォームミルクで描かれたイラストのクマ。

「ふっ。ああ、本当だ」

 文くんは言い終えてもなお、小さな笑いを零し、最後は堪えている様子。
 私は疑問を抱きつつ、とりあえず零さないように気をつけながら近くのテーブルにカップを置いた。
 続いて私の向かいにカップを置いて椅子を引く文くんに尋ねる。

「なに……?」

 私もおもむろに席に着いて、正面の彼を窺った。すると、彼は軽く目を伏せて口角を上げる。

「いや。見た目が変わっても、中身はやっぱりミイだなと思って」
「それってどういう……」
「ミイは俺でよかったの? ミイなら若いし、これからいろんな出会いもあるし、急いで選択しなくてもよかっただろ」

 文くんは私の言葉を遮り、カップの取っ手に指をかけながらそう言った。

 ふいうちで投げかけられた質問の意味がすぐには理解できない。
 だけど、彼の雰囲気からは到底ふざけた空気じゃないのがわかるから、私はゆっくり噛み砕いて考えた。

『俺でよかったの』……って。どういう気持ちで言ったの?
 もしかして、本当に謙遜してるの? だとしたら――。

「本当に、そう思う?」
「え?」

 ようやく文くんが顔を上げてこっちを見た。
 私は彼をまっすぐ見据え、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。

「文くんって、私が小さい頃からいつも私の気持ち汲み取ってくれて、味方してくれて認めてくれて……すごいなあって、うれしいなって思ってた」
「いつも? そうだったかな……ごめん。全然ピンと来ない」

 文くんはまったく心当たりがないと言わんばかりに、きょとんとこちらを見る。

「ふふ。文くんにとってそういう言動を取るのは自然なことで覚えてないのかもね」

 私はクマのラテに目を落として小さく笑った。