エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 約十五分後。
 私はスタンドミラーの中の自分を食い入るように見た。

 彼女が私にタッチアップ――メイクを施したいと言って、思い切ってお願いしたものの……。

「……信じられません。これが自分だなんて」

 こんなにも変わるなんて。

 彼女に負けず劣らずの艶感が顔全体にあって、自分で言うのも恥ずかしいけど垢抜けた。
 いつもはあまりしないアイメイクも、プロの手にかかると童顔の私に違和感なく、むしろ大人っぽい印象になってるから不思議。

「アイラインとか、顔が濃くなるイメージ持たれる方多いんですけど、うまく引き算すればいいアクセントになるんですよ~。目元が引き締まって、グッと大人っぽくなります」

 茫然としていた時、鏡越しに人の気配を感じてゆっくり後ろを振り返る。

「ミイ、お待た……せ」
「あ、文くん」

 そこにいたのは文くんで、私はパッと椅子から立ち上がった。

 また置いていかれるのは避けたいと思って慌てて彼と向き合ったものの、彼が驚いた表情で私を見つめてくるのですぐさま顔を背けた。

「へ、変? 話の流れでメイクしてくれることになって、それで……」

 文くん、固まってた。
 もしかして、いまいちだった? そういえば、女性はいいと思っていても、男性の反応は微妙なことってよくあるみたいだし。一緒にいて恥ずかしいって思われてたらかなりへこむ……。

 心臓がバクバクいってる。不安で下を向いていたら、文くんが優しく答える。

「ああ。ちょっと……いや、だいぶ雰囲気変わっててびっくりしただけ」

 びっくりしただけ……。だったら、変ではなかったかな。よかった。

「いかがですか? 元々目鼻立ちははっきりしてらっしゃったので、濃くなりすぎないようにしてみました」

 密かに安堵の息を漏らしていたら、カウンターからスタッフが出てきて文くんへ声をかけた。

「そうですね。彼女のよさは残ったままだし、似合ってると思います」

 文くんの返答にドキッとして、横顔を盗み見る。

「よかったです。お客様、ファンデーションいらずなほど、すごく肌のきめも細かくて。私もメイクがとても楽しかったです。ありがとうございます」
「あ、いえ。こちらこそ本当、ご丁寧に……」

 深々と頭を下げ、姿勢を戻すと小さめのショッパーを差し出される。

「サンプル品をお渡ししますので是非ご自宅でも使ってみてください。よろしければ、またご来店くださいませ」
「ありがとうございました。また来ます」

 私はサンプル品を受け取ってもう一度お辞儀をし、文くんと一緒にショップを後にした。