エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 プレートには私の手のひらに乗るかなって大きさのチョコレートケーキ。
 いちごやクランベリーが零れんばかりに乗っていて、チョコプレートには『Happy Birthday MIO』と書かれている。

 私は目の前のプレートに意識を奪われ、声も出ない。

「お誕生日おめでとうございます」

 公孝さんに言われ、私はおずおずと頭を下げる。

「あの……ありがとうございます。でもどうして私の誕生日……」
「文尚に誕生日だからってお願いされてたんだ。まさかこんなに可愛い子連れてくるとは思わなかったけど」

 公孝さんは最後、冷やかし交じりに文くんを見て言う。

 もしかすると、入店の時の『例の』ってこういうこと? そうだよね。文くんがわざわざ私たちの突拍子のない契約を友達に口外するはずない。

「なんでだよ。別にいいだろ。それより、これってテイクアウト可能?」
「ああ。大丈夫だよ。箱に入れてきてやろうか?」
「あ。私食べたいです、ここで」

 私が小さく手を上げて会話に割り込むと、文くんは目を丸くしていた。

「でも全部はちょっと……お料理が美味しすぎて食べ過ぎたので、残りを持ち帰りしてもいいですか?」

 首を窄めてお願いすると、公孝さんはうれしそうにはにかんで、「もちろん」と答え、テーブルを離れていった。

「ミイ、無理しなくていいよ」
「無理はしないよ。少しなら食べられるし、食べたいの」

 食べるのが勿体ないって気持ちも少なからずある。でも、それ以上に今日の私の誕生日を祝ってくれたのがうれしい。
 忙しいのに事前に友達に相談して用意してくれて……。そう思ったら、今この場でケーキを食べることに大きな意味がある気がして。

 すると、文くんは「そう」と呟いて、ナイフを手に取りプレートを引き寄せた。
 手際よくケーキを一ピースカットしてくれて、取り皿に乗せ換えたものをくれる。

「ありがとう」

 受け取ったケーキにフォークを入れて、ひと口食べる。

 チョコレートケーキの甘そうな見た目とは裏腹に、実際はベリーソースやチョコ自体が甘さ控えめでとても食べやすい味で驚いた。

「めちゃくちゃ美味しいよ……! 文くんはやっぱり甘いものダメ?」

 彼が昔から甘いものを好まないのは知っている。知っていてなお、声をかけたくなるほど美味しかった。

 次のひと口分をフォークに刺しながら、冷静になって苦笑する。

「無理強いしちゃ……」
「じゃ、ひと口だけ」