エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「ランチメニューは……あ、ここだ。文くんのオススメってある?」
「んー、普段ひとりで来るときはいつもワンプレートものをオーダーしてたけど、今日はこれとかどう?」

 文くんが肘をついて前傾姿勢になる。
 急に距離が近くなって、ドキッとした。

 慌てて『平常心』と心の中で唱え、彼が指を置いた箇所を読み上げる。

「ラ、ランチボックスコース?」

 写真が一枚載っている。木製の大きめランチボックスが二段あって、彩り豊かな料理が詰められている。

「前菜からデザートまでついてる。メインは三種類から選べるんだって。これが一番人気らしい」

 そういえば、周りを見れば多くのお客さんがオーダーしてるみたい。テーブルの上にメニュー表と同じランチボックスが置いてある。

「じゃあそうする。メインを選ぶんだよね? 文くんはなににする?」
「そうだな……」

 あれ……。なんかこれ、すごくデートっぽくない? ふたりで買い物している時は、私が意識しすぎて微妙に距離を取ってしまってこんなに近づかなかったし、なにより会話がカップルっぽい。

 まさか文くんと疑似でも体験できるとは思わなかったから、正直すごくうれしい。

 それから、私はリズミカルに跳ねる心臓に戸惑いながら、当たり障りのない会話を交わす。
 運ばれてきた料理はとても色彩が美しくて、公孝さんの許可をもらってスマートフォンで撮影までした。

 魚介のカルパッチョやショートパスタのサラダ、キッシュ、それとメイン料理のハーブチキンソテー。文くんは牛肉のカットステーキ。
 そして、デザートは二種類の葡萄のコンポートが添えられていた。

「美味しかった。全部! ちょっと量が多いかなって思ったけど、食べちゃったもん」
「それはよかった。公孝も喜ぶ」

 文くんはコーヒーカップを口に付け、微笑む。

 オシャレなレストランで食後のコーヒーを飲む彼は、見惚れるほど綺麗。

 実は今日一日一緒に行動して感じていたけれど、文くんはやっぱり世間一般的にもカッコいいらしい。
 歩いていてすれ違う時や、さっきの店内で商品を見ている文くんを見てた女性がたくさんいた。現に今も、近くのテーブル席の女性たちが彼を気にしている。

「でもお腹いっぱいならどうしようかな」
「え?」
「失礼します。お待たせいたしました」

 そこに公孝さんが再びやってきた。見上げると手にはプレート。
 それを私の前にスッと置いた。