エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「あ。これいいな」

 私は商品棚に気になる商品を見つけ、足を止めた。

 視線の先には北欧ブランドのダブルウォールグラス。耐熱ガラスで二層になっているものだ。

 中に液体を入れると、二層になっているため液体が宙に浮いているように見えるおしゃれなカップ。でもおしゃれなだけじゃなく、耐熱性のガラスが二重になっている分、保温性も高いと言われていて人気の商品。

 私は誕生日の今日、本当に文くんと外出している。

 あまり本気にしていなかったから、咄嗟に行きたいところを浮かべるのが大変だった。
 けれど彼と出かけられるならどこでもうれしいから、行き先は思いつきで決めた生活雑貨や文房具など取り揃えている大きなショップと言ったのだ。

 六階建てのビル全部がひとつの店。私たちはそのビルを上から順にぶらりと見て回っていた。
 食器が並ぶ棚の前で、文くんが私の目線を辿りつつ尋ねる。

「どれ?」
「あのガラスのカップ……あっ、ごめん」

 百六十センチない背の低めの私にとって、少し高い棚にディスプレイされていたカップに手を伸ばしたら、文くんの指先に触れてしまった。

 慌てて手を引っ込めたものの、あまり過剰な反応をするのもどう思われるか不安になって、平気なふりをする。

「文くんに取ってもらったほうがいいね。私小さいし、間違って落としちゃったら大変」

 おどけてみせてお願いすると、彼は私の代わりにカップをひとつ取った。

「はい。これだろ?」
「うん。わあ。やっぱりこのブランド可愛い~」

 文くんから受け取って、色んな角度からまじまじと眺める。
 取っ手の部分はステンレスでとてもスタイリッシュなデザイン。

「好きなの?」
「家で愛用していたカップがここのブランドだったんだ」

 口をつける部分の厚みとか、カップの深さとか、いろんなところを確認しては、恍惚として息を吐き、両手で丁重に文くんへ差し出した。

 頑丈なガラスとはいえ、この高さから落とせば割れてしまうから。

「あ、戻すのお願いしてもいいかな?」
「可愛いんじゃない?」
「え?」
「これ。好きなんでしょ?」

『可愛い』って、すぐカップだってわかったけど、ほんの一瞬だけ……都合のいい勘違いをしちゃった。