エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「いつの間にかすっかり大人だな。三年前はまだ子どもっぽさが残ってた気がしてたのに」

 疲れ気味だった彼に笑顔が戻って、私も自然と顔が綻ぶ。

「もう二十四になりますから」

 得意満面で返し、食事の準備を進める。私が茶碗やお椀をセットする横で、文くんは軽く眉根を寄せて首を傾げていた。

「二十四……? あっ。ミイの誕生日って明後日……いや、もう明日じゃないか?」

 文くんの指摘を受けて掛け時計に目線を移せば、時刻は午前零時十分。

「あ、本当だ。零時回っちゃった。肉巻きだともたれるかな? ご飯の量とか少なめにしてはみたけど」

 食卓に並べた料理を見て呟くや否や、大きな息をひとつ吐かれる。

「日頃からそうやって俺の身体気遣ってくれてるお礼しなきゃな」
「いや、だからお礼はここに置いてもらってる私の方で」
「誕生日。どこか行こうか」
「えっ」

 びっくりして思わず彼を凝視してしまった。

「それとも、仕事忙しい?」
「う、ううん。順調なの。文くんのおかげだね」
「なんで俺? むしろ邪魔ばっかりしてるだろ。掃除とか食事とか。正直助かってはいるけど」
「掃除も食事もついでだもん。文くんが私を引き受けてくれたから、余計な心配なくなって集中できてる。本当にありがとう」

 私が畏まってお礼を伝えると、文くんは「そう」とひとこと返し、椅子に座った。

「じゃ、当日どこに行きたいとか思いついたら教えて。ミイの誕生日は祝日だから俺も休みの予定」
「そっか……。うん。考えてみる。ふふ……楽しみ」

 彼は妹への家族サービスのようなもので誘ってくれたのだろう。けど、私にとってはデートだ。喜ばずにはいられない。

 ふと、文くんがジッとこちらを見ているのに気づく。
 無意識に顔がにやけていたのかもしれない、と慌てて表情を改めた。

「あっ、ご飯! どうぞ食べて」
「うん。ありがとう」

 そうして、彼は両手をきちんと合わせ、「いただきます」と言って味噌汁から手に取った。