エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 週末になり、土曜日を迎えた。

 私はいつも通り朝食を終えて自室に籠もり、パソコンに向き合っていた。

「うー……無理だ」

 時間ばかり気になって、仕事が手につかない。

 おかしい話だよ。今は仕事に集中したいからって嘘をついてしまったのに、なんだか話があらぬ方向へ転んでいって、結果的に仕事が進まない。本末転倒かと自分で突っ込んだ。

 いや。〝今〟さえ乗り切れば、その後は将来を心配する両親も落ち着いて、私も安定するはず。

「ああ、でもなあ」

 私は心の中に留めておけず、堪らずひとりごとを漏らす。ふいにデスクの隅で充電しているスマートフォンが視界に入り、手を伸ばした。

 ロックを解除してメッセージアプリを開く。そして、文くんの名前をタップした。

【お疲れ様です。折り入ってお願いがあるんだけど……。時間がある時に電話できるかな?】

 母と話をした翌日に私が送ったメッセージだ。

 その日、ひと晩経って多少心の整理ができた私は、ダメ元で文くんへメッセージを送ったのだ。

 彼からは数分後【夕方に電話する】とひとことだけ返信がきた。

 彼は仕事が忙しいとわかっているし、土曜日の件をお願いしたところでほぼ百パーセント断られる。

 そう考え、あまり深く考えずに聞くだけ聞こうと行動した。そこで断られたら、潔く母にも謝って、本当のことを話そうと心に決めて。

 約束通り夕方に文くんから電話がきて、恥を忍んで現状を伝えた。もちろん、引き受けてもらえるとは微塵も思わず、実際は自分があきらめるきっかけをもらおうとしてのお願いだった。

 しかし、私の予想を裏切って、彼はふたつ返事でOKしたのだ。

 私はスマートフォンをデスクに置いて、頭を抱える。

「はあ……。現実離れした展開が続いてる……」

 ここまで来ちゃったら、あとは度胸。
 母へは事前に相手が文くんだって説明はしていない。

 悩んだけれど、それを言ってしまったらまた母からの質問攻めが始まる。なら、もう当日まで黙っていようと思った。

 約束の十時が迫ってる。
 いよいよ座ってもいられなくて、椅子から立ち上がり部屋の中をうろうろ歩き出す。いっそもうリビングへ降りていようかと考えた矢先、遠くでインターホンの音が鳴った。
 瞬間、心臓が大きく跳ねる。

 慌ててドアを開け、階段まで急ぐ。