エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 一週間が経った。

 あの後、母からは特に架空の彼氏について突っ込まれず、平穏な日々を送っていた。
 午後に近所のコンビニへ行った帰り道。近所に住んでいてよく挨拶を交わす年配の女性、鏑木(かぶらぎ)さんに遭遇した。

「こんにちは」
「あらあ。ミイちゃん。こんにちは。お買い物?」

 私の声に気づいて足を止めた小柄なお婆さん。
 家が斜向かいで、小さい時から外で会えばこうして話をしているから、親戚みたいな感覚だ。

「はい。ちょっとコンビニに。鏑木さんも?」
「そう。散歩がてらね。でもついつい買いすぎちゃって」

 鏑木さんはそう言って、綺麗な薄紫色のショッピングカートとエコバッグを見せて笑った。

「私荷物ほとんどないから、その袋持ちますよ」
「ごめんなさいね。ありがとう」

 私は鏑木さんからエコバッグを受け取って並んで歩く。

「そうそう。ミイちゃん、なんだかいい人、いるんでしょう?」
「は?」

 思わず失礼にもひとことで反応してしまった。
 目を剥いて立ち止まると、鏑木さんはニコニコとして続ける。

「お母さんから聞いたのよ。ミイちゃんもそういう年頃になったのねえ」
「いや~……あはは」

 その場は引きつった笑いでどうにかやり過ごしたものの、頭の中は大混乱。同時に、母への憤りが湧いてきたがグッと堪えた。
 鏑木さんと別れ、自宅に入る。玄関のドアが完全に閉まってから、しばらく動けずにいた。

 さっきの話……『お母さんから聞いた』って言ってた。え? 本当に?

 まさか私の些細な話題をわざわざ近所の人に?と、信じがたい気持ちだった。

 母を責めるべきか迷ったけれど、自ら彼氏についての話題に触れる方が嫌だったため、すべて飲み込んだ。

 しかし、それから三日経ち……近所で同様の話をされたのが二度ほど。
 いったいどこまで触れ回っているのかとさすがに我慢の限界を超え、母の休みの日に追及すると決めた。