エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 ――八年後。

「なーち。どこ行くの?」

 私は廊下をハイハイしていく子どもの後を追っていく。

 那智(なち)とは、念願だった私と文くんの子ども。

 あれから私は、文くんと一緒に急がず自分たちのペースでと病院に通いつつ、我が子を抱ける日を夢見て頑張っていた。

 色々と勉強したり情報を得たりしてわかっていたつもりではいたけれど、実際の治療は長引くにつれ、やっぱり疲弊していくところはあった。
 それでもいつも文くんが寄り添ってくれたから、時々休みつつも前を向いていられた。

 そうして治療を始めて六年の月日が経った時、奇跡が起きた。

 私は驚きのあまり初めは喜ぶことも忘れて、茫然としていた。

 けれども、妊娠の報告を受けた文くんが私の前で涙をこぼしたのを見て、ようやく実感して一緒に泣いた。

 妊娠生活に入っても、どうしても常に不安がつきまとう私を支えてくれたのは彼。

 後期には私も母親の自覚を持ち、文くんに頼ってばかりではいけないと積極的に出産後の準備をしていた。

 那智は生後十カ月の男の子で、今は目が離せない時期。
 ハイハイといえども案外速度は速く、子どもの成長に感心しながら声を掛ける。

「またここ? 本当、那智この部屋好きだねえ。でもひとりで入っちゃいけないよ」

 とあるドアの前で今度はつかまり立ちを見せる那智は、私に「うー、うー」と繰り返して訴えてきた。

 仕方ない、とひとつ息を吐き、那智が倒れないように支えつつドアを開ける。
 私が手を離した瞬間、那智はスイスイと部屋の中に入っていった。