エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「これ……」

 私はぽつりと零し、ずっと握り締めていた右手をゆっくり開く。

 手の中にあったのは、赤いリボンで結ばれている小さな透明な袋。
 その中身は、以前一緒に見に行って気に入っていた結婚指輪に合う、婚約指輪。

 小さなダイヤモンドがぐるっと散りばめられているエタニティリング。

 とても高価なものが、アドベントカレンダーの最後の引き出しにしまわれていたのだ。

「ああ。気付いた?」
「こんな……どうするの? 私が放っておいてそのままにしてたら」
「澪ならきっと見つけてくれると思ってた」

 私の心配を一蹴し、文くんは微笑みながら手を伸ばす。

「貸して」

 私の手から指輪を取ると、ラッピングを解いて中身だけを指で摘まんだ。その後、私の左手を掬い上げ、薬指に指輪を通す。

 もう涙腺が壊れて、ボロボロと溢れてる。
 右手で目尻を拭い改めて彼を見ると、熱の籠った双眼に捕まった。

「病める時も健やかなる時も、命ある限り澪を愛し抜くことを誓います」

 ごく一般的な誓いの言葉の一部を抜粋したものだったけど、現状が現状なだけに心に響く。

 私は彼に軽く握られた左手を見て、堪えきれずに泣き崩れた。
 なんとか立っていられるのは、文くんが背中に腕を回して支えてくれているから。

 文くんのコートを涙で濡らしていると、柔和な声で言われる。

「ほら。澪も誓って」

 彼の胸の中からおもむろに見上げ、優しい表情を見てはやっぱり好きだという気持ちが溢れてくる。

「いいの……?」

 私が掠れ声で尋ねると、文くんは愚問とでもいったように笑って返す。

「俺は澪がいいんだよ」

 そうして、一瞬触れるだけのキスが降ってくる。

 冬の空気で冷えていたはずの唇なのに、温かく感じた。心臓も軽快なリズムを繰り返していて、寒さ自体感じられない。

 面映ゆい気持ちで彼と見つめ合っていた私は、はたと気付く。

「ふ、文くん、ここ玄関だった……。近所の人に見られてたかも……」

 文くんも同じくはっとして辺りを見回し、ばつが悪そうに口を開く。

「あ……ごめん」

 お互いに照れくさい空気を抱きつつ、そっと距離を取る。
 完全に身体が離れる直前、文くんが私の左手を離さずきゅっと掴んだ。

「でも、今日はイブだから。みんな大目に見てくれるかも」

 ニッと口角を上げ、眩しいほどの笑顔を見せる。

「愛してるよ」

 そうして彼は、さりげなく薬指に口づけた。