エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「澪が望むなら俺も努力を惜しまない。今あるありとあらゆる方法や可能性を探って実行する。言っとくけど苦痛は感じないよ。全部俺の意思で動いているだけだから。だけど、澪が少しでも義務だと思っているなら無理しなくていい」
「義務……っていうか……やっぱり責任は感じると思う」

 たどたどしく返し目線を上げると、彼は至極真剣な眼差しをこちらに向けていた。

「それを感じる必要はないんだよ、澪」

 彼の気遣いに流されてしまいそうになる。

 私は首を横に振った。

「そうじゃなくても、私……私自身、家族が増えたらいいなって期待する。絶対」

 周りからの期待でプレッシャーを感じるという理由もあるが、自分で自分に懸ける期待の方が怖い。
 俯いて下唇が見えなくなるほど噛みしめていたら、頭にポンポンと手を置かれる。

「わかるよ」
「私は自分が原因だから仕方ないけど、文くんは違う。いつか『なんで』って思う日が来るかもしれない。そうしたら私」

 彼の同調に言下に反論し、胸が詰まる思いで言葉を並べた。
 すると、今度は文くんの方が私の言葉を遮って、私の腕を掴んだ。

 びっくりして顔を上げたら、私の瞳に薄っすら涙を浮かべる文くんが映った。

 いつも笑って柔らかな空気を纏った文くん。

 年が離れているせいか、怒ったり悲しんだり感情的な姿は決して私に見せなかった。

 けれど、それも大人になって偽装の恋人として一緒にいるようになってから、徐々に変化があった。
 そして今、私はまた新たな一面を目の当たりにしてる。

「……俺がなんでって思うのは、澪が傷ついて苦しんでることに対してだけだ」

 泣くのを堪え、悲しそうにつらそうに、彼は喉の奥から声を絞り出すようにそう言った。

 こんな風に自分を想ってくれている人がいるなんて。

 しかも、それが私が想い続けてきた人だなんて……この胸の奥から突き上げてくる感情をどう呼べばいいのかわからない。

「だけど代わってやることもできないから……せめて一緒に悩ませてよ。家とか他のことはどうでもいい。澪がまた笑ってくれさえすれば」

 最後は凛々しい顔つきで言われて、私はしばし彼に見入っていた。

 じわじわと目尻に涙が溜まるのを感じた時には、もう遅い。
 私の頬は濡れ、頑なだった心が一気に緩んでしまった。