エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 私はスマートフォンに人差し指を置いた。パッとメッセージ画面が開いて目に飛び込んできたのは頬袋を膨らませ、木の実を持っているリスの写真。

【ミイっぽくて笑った】

 そうして、追ってもう一件そうひとこと送られてきた。

「なにこれ。なんで私?」

 ついひとりきりなのにもかかわらず、声を出して笑ってしまった。
 やっぱり会ったり話したりすると、好きだなあって気持ちが一瞬で蘇る。

【これ……どうしたの?】

 ディスプレイに集中して一文だけ返信すると、すぐに既読がついた。

【同僚が北海道に帰省したときのリス園の写真だって】

 同僚からリスの画像を送ってもらったりしてるの? 文くん、可愛いところもあるんだ。

【可愛いけど、どこが私っぽいの?】
【この前、こんなふうにご飯食べてた】

 質問文を送って数秒後に返されて、カアッと顔が熱くなった。
 どう受け取ればいいのか狼狽えていたら、続けてメッセージがもう一件。

【なにしてた?】

 急な声かけに思考も指も止まった。

 なに……って。どうして彼はいきなりそんなことを……。
 偶然なのか、それとも虫の知らせ的なものがあったのか。

 図らずも私が窮地に立たされそうなこのタイミングで連絡をくれたことが、なにか意味があるのではないかと思えて仕方がない。

 メッセージは見ているのに返信に間が空いてしまったせいか、今度は電話がかかってきた。
 私はスマートフォンを落としそうになるほど驚いて、慌てて応答する。

「も、もしもし?」
《なんだよ。ミイ、既読スルーとかするタイプ?》
「ごめんなさい。返信文考えてたら時間がかかっちゃった」
《嘘だよ。多分そんなところだろうと思ってた》

 軽い笑い声とともに優しく返され、ほっとする。

「澪ーっ」

 その時、廊下から母の呼び声が聞こえ、ドアの方を振り返る。ノックの直後、返答する間もなくドアを開けられて硬直した。

「参ったわ。カレー粉足りなくて……あら? 電話中だったの? ごめんね。……もしかして例の彼氏?」

 母は首を竦めて謝るや否や、興味津々で私を見てくる。困惑しきりの私は、咄嗟に人差し指を立て、鼻先に当てた。

「ごめんごめん。じゃあお母さんが買い物行ってくるわね。あ、彼に月末土曜の午前中で聞いてみて」

 嵐のごとく現れて去っていた母に唖然とする。
 階段を下りていく足音を確認している最中に、文くんを思い出して慌てふためいた。

「あっ。ご、ごめんね、文く――」
《彼氏? ミイ、彼氏いるの?》
「あ、いや……」

 言下に聞かれて言い淀む。