エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 昨夜は両親がものすごく心配してくれているのがわかっていても、どうしても気丈には振る舞えなくて、ひと晩中部屋に閉じこもって塞ぎ込んでいた。

 心の痛みを癒すには時間が必要だって、どこかで聞いた。

 理屈はわかる。
 けれども、時間って一体どの程度? 皆目見当もつかない。

 ベッドからむくりと起き上がり、寝癖頭のまま廊下に出る。リビングに下りるともう誰もいなく、ダイニングテーブルの上には母のメモと一緒に朝食が用意されていた。

「十一時……」

 今が何時かどうかさえ気にする余裕はなかった。

 私は母の料理を見つめ、心の中で『ごめんなさい』と呟いて再び部屋に戻る。
 自分の部屋に戻り、ベッドの上で膝を抱えて座った。

 デスクの上に置いたアドベントカレンダーが視界に入った途端、再び激情が蘇りそうでパッと目を逸らした。

 そっか……。今日はイブなんだ。時間の感覚と同時に日付の感覚も、ここ数日なかった。あと一週間もしたら、新年を迎えるんだ。

 毎年『実感がないなあ』って漠然と感じるけれど、今年に至っては実感がないどころか先が見えなくて不安しかない。

 文くんとぎくしゃくしてしまったから、年越しパーティーだって……難しくなっちゃうよね。

 失ったものの大きさを改めて理解し、人は何度でもどこまででも落ち込むものなんだなと失笑した。

 このままではいけないと、自分を奮い立たせてベッドから降りる。
 まずは気分転換にシャワーを浴びた。

 幾分かさっぱりした私は、部屋に戻ってデスクの手前に立つ。

 昨夜、そのまま床に放っていた本を拾い上げ、表紙を見つめた。

 ひとり立ちのために修行として旅に出る魔女の女の子、か。家族と別れ、新しい出会いを繰り返して前を見て歩いていくんだよね。

 私もこの別れを経て、成長するしかない。じゃなきゃ悲しすぎる。
 きちんと受け入れて、現状に悲観せず、一歩ずつ。

 頑張れ。頑張る。

 自分に檄を飛ばし、今を乗り越えようと決意する。

 私は止まっていた時間を進ませるために、アドベントカレンダーに手を伸ばした。