エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 静寂な時間は焦りや不安を煽られがちだけど、今日はこの間と違ってだいぶ気持ちは落ち着いている。

「この前はごめんね。感情的になったって反省してる」
「うん。別に怒ってないよ」
「ふふっ。怒って冷たく突き放してくれたらいいのに。文くん、優しいから」

 相変わらずの優しさに申し訳なさが募り、思わず無理に笑った。
 文くんはというと、表情を変えずに真剣な目でこちらを見ている。

「怒りはしないけど、話は聞かせてほしい」

 ついに本題に入るのだと覚悟して、私はまず文くんをベッドの脇に座るよう促した。
 それから私はデスクチェアを彼の前に移動させ、ゆっくり腰を沈ませる。

「月曜日……検査したでしょ? あれでちょっと……色々あって」

 たどたどしく説明をするや否や、文くんの表情が見る見るうちに翳っていく。
 眉間に深い皺を刻み、ひとこと聞き返される。

「え? なに?」
「ん。婦人科の方。筋腫とか嚢胞とか。なんか動転しちゃってきちんと全部は覚えてないんだよね。ダメだね、私」

 私が笑って話すも、文くんは瞬きもせず食い入るように私を見つめて動かない。

 私は微笑を浮かべたまま、ふっと手元に目線を落とした。

「けどね。ちゃんと覚えてる部分もある。私、もしかしたら将来子ども産めないかも。そういう患者は不妊症の可能性高い傾向にあるみたいだから」

 彼は私の告白に衝撃を受けて絶句していた。必死に私を傷つけない言葉を探しているのが伝わってくる。

「だからね。冷静になって考えることがたくさんあってマンションを出たの。とても大切なことだと思ったから。でも……。いざとなったら、どう伝えたらいいんだろ。結論から言うと――結婚、やめない……?」

 彼の反応が怖くて、俯いたまま提案した。
 沈黙が怖くて、咄嗟に笑って場を和ませようとさらに言う。

「やめない?ってそんなに簡単なものじゃないってわかってるけど」
「……澪」
「私、自分がまだ子どもだって痛感した。結婚に対する責任とか覚悟とか、全然足りてなかったよ」

 私は文くんの呼び声を無視して話し続けた。
 次の瞬間、うっかり彼の顔を見てしまって、一気に感情が爆発しそうになる。

 ここで泣いてしまったら、多分もうひとことも話せなくなる。
 だから早く、この数日で考えた言葉を全部伝えなきゃ。

 頭ではそう思っているのに、一度ぶつかった視線はもう逸らせなくて。

 私は事前に用意していた建前の言葉じゃなくて、涙とともに本音を吐露していた。

「もう少し早く気付いていたら……文くんの戸籍も心も傷つけずに済んだのにね。もう、ホントやだな。……自分が嫌になる」

 文くんが立ち上がったのを感じて、私は線を引く。

「慰めなくてもいい。冷たいとか思わないから。むしろこのまま離れられたら、それで――」