エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 静かにドアが閉まっていくのを視界の隅に入れ、階段を下りていく足音を聞きながら肩を震わせた。

 自己嫌悪しかない。
 あんな風にひどい仕打ちをした直後にもかかわらず、まだ心は揺らいでるし迷ってる。

 中途半端な態度は一番いけないとわかってても、彼を追いかけて縋りたくて仕方ない。

 次第に呼吸は浅くなり、腹部に鈍痛を感じ始める。ふらっとベッドへ向かって、手前で座り込んだ。

「澪……? 文くん帰っていったけど……澪! どうしたの? また痛むの!?」

 異変を感じた母はすぐさま駆けつけて、冷静に対処する。
 こういう時、やっぱり母は看護師でかっこいいなと思う。

「澪。前に一度声は掛けてたけれど、やっぱり婦人科系の疾患があるんじゃ……。検査したんでしょ?」

 母は私が高校三年生の頃、『あまり痛みがひどいなら一度婦人科へ行こう』と言ってくれていた。

 でもその時は体育はできなくても、なんとか我慢して登校はできる程度だったし、やっぱり十代で婦人科ってハードルが高い気がしていた。

 みんなそれなりに痛みはあると聞いていたのもあって、自分は特別おかしいわけじゃないだろうって。その後も自分をごまかしつつ、今日までやり過ごしてきた。

 私は布団をぎゅっと握り締める。

 はらはらと落ちる涙がシーツに染みを作っていく。

「お母さん、私……〝お母さん〟になれないかもしれない……」

 言葉に出すのが怖かった。
 心のどこかで〝これは現実じゃない〟って思っていた。思い込みたかった。

 口にさえ出さず、胸の内にしまっておけば誰も傷つかない。

 なんでそんなバカみたいなことを信じていたんだろう。

 私が学生の頃、自分の痛みを見て見ぬふりしてきたことも、最近病院に運ばれたことも、文くんと結婚してることも疾患が発覚したことも。

 私がずっとずっと文くんだけを想ってきたことも。そんな彼の重荷になることも。

 すべて現実なのに。

「――結婚、しなきゃよかった」

 嗚咽交じりに私の口をついて出てきた言葉に、母はなにも言わずにただ私を抱きしめた。