エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「……私が小さい時からずっと甘えてきたからだね」
「え?」

 目を丸くさせる文くんに、私は苦笑交じりに続けた。

「こんなに気を遣ってもらって……主治医とか言ったり……結婚してとか。大人になってまで縛りつける言い方してごめんね」

 改まってしおらしく謝罪をする私に、さすがの文くんも混乱しているみたい。

 彼は一瞬固まって、眉根を寄せては口を開く。

「どうしたの? 俺はなにも気にしてない。主治医がどうとかなんて、ただの思い出話だろ」
「私、現実には文くん以外のお医者さんに診てもらったし、もういいよ」
「澪?」

 肩に置かれた手を振り解くように、私は身体を横に向けて言う。

「もう……『ミイ』でいいし、私の面倒見なくてもいい。忙しいのに、こんな風に私の気まぐれに振り回されるの疲れるよ」
「なに言って……」
「ごめん。私、やっぱりまだ結婚とか早かった。急に実家に帰りたくなって、相談も報告もせずすでに帰ってるとか、ありえないでしょ? 精神年齢子どもって感じ」

 一度本音を垂れ流してしまえば、もう止められない。

 感情的に伝えたいわけじゃないのに。
 だけど、もう頭の中がぐちゃぐちゃで自分でもコントロールがきかない。

「別にそんなのなんとも思ってないって」
「私が嫌なの。気を遣うの! いちいちここに帰ってくるのに報告したり、体調崩して無駄な心配かけたり」

 息継ぎもせずに捲し立て、驚き固まっている文くんにはっとして一度口を噤んだ。

「……ごめんなさい。でも本当にそうだから。私、少し横になりたい。文くん、帰ってもらっていいかな。……もう来なくていいから」

 私は完全に彼へ背中を向け、冷たく言い放った。

 震えそうな足や手を必死に堪えて、唇を引き結ぶ。
 そこに、背後から文くんがポンと頭に手を置いた。

「わかった。今日は帰るよ」

 触れられた感覚、手の重み、温もりに今にも涙が出そう。

 私が微動だにせずにいると、彼は手を離す。ドアを開けて、もう一度私を振り返った。

「また来る」