エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「それじゃ、くれぐれも無理しないように。スマホは家の中でもなるべく持ち歩いて。なにかあった時、音声ででも発信は可能だろ?」
「なるほど。そうだね。わかった。じゃあ行ってらっしゃい」

 翌朝。文くんが出勤していったのを見送って、静まり返る玄関で唇を引き結んだ。

 私は部屋へ向かい、ノートパソコンや最低限必要なものをしまってすぐに廊下へ出る。
 リビングへ立ち寄って、きちんと整っているかだけを確認すると、その足でマンションを出た。

 体調の心配もあるため、事前に呼んでいたタクシーで移動する。
 行き先は自分の実家だ。

 ほんの数か月だけなのに、辺りの景色が遠のいていくのを眺めてセンチメンタルになる。

 自分勝手だってわかってる。相手になにも言わず、ひとりで思い悩んで、勝手に結論付けて行動して……。
 わがままにもほどがあるし、子どもの発想・行動だなって重々承知しているつもり。

 それでも今の私には、綺麗ごとや常識を並べられても受け入れる余裕は全然ないし、こうする以外の方法はどうしても選べなかった。

 東郷先生(第三者)からの言葉は、良くも悪くも私を冷静にさせた。

 彼に話せば、同情して合わせようとしてくれる。

 文くんは昔からそう。年の離れた私のわがままに振り回される役。
 優しいから受け止めてくれるだけで、私はずっと守られてきた。

 大人になったのに……結婚までしたのに、それだと私はずっと変わってない。
 自分の願望だけをぶつけるのではなく、相手が最も幸せになる道を考えられるようになりたい。

 膝の上の手に力を込める。込み上げる涙を抑えている間に、世田谷の実家に到着した。
 逆にこっちはたった数か月ぶりなのに、妙に懐かしく感じる。

 午前中のこの時間は、両親ともに仕事で不在だとわかってる。

 私は鍵を出しながら玄関ドアに歩み寄っていくと、目の前のドアがガチャッと開いた。