エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「ミイの手は華奢だから細いタイプが似合うと思う」

 真剣な横顔を見て、胸がときめく。

 今は目の前にスタッフもいるんだからと、緩む表情を引き締めて、私もショーケースの中に意識を集中させた。
 目を凝らして指輪を見比べつつ、文くんが言ってくれたものに近しい形のものを見つけ、指をさす。

「だったら、この辺かな? これとか、文くんにも合いそうだね。こういうシンプルなデザイン」
「どれ?」

 ふいに彼が私に身体を寄せ、顔が近くなる。
 単にショーケースを覗き込んだだけなのにドキリとし、さらにはふわりと香る文くんの匂いに包まれている錯覚に陥って動揺する。

「ああ、いいかも。ミイの指に映えそう」

 凛々しい表情が柔和になったのを見た瞬間、きゅっと胸が鳴る。

 どうしよう。こんなに幸せでいいんだろうか。
 あまりに幸福すぎて怖い。

 そんな風に感じてしまうのは、私が物語を紡ぐ仕事をしているせいかな。

 だって、人生で最高に満たされているはずなのに、心のどこかで小さな不安が隠れている気がしてならない。

「サイズはおわかりになりますか? それぞれのサイズをお出しします」

 スタッフの声で我に返り、おずおずと返す。

「ええと、一応測っていただいてもいいですか?」
「はい。もちろんです」

 その後、他に数点見繕い、初めに案内されたブースへ戻り、ソファに座ってゆっくり指輪を選ぶ。
 自分の薬指を浮かせ、色んな角度から眺めてぽつりと漏らす。

「綺麗……」
「俺、指輪って初めてつけたかも」

 隣で文くんは少し照れくさそうに言って笑った。

「そうだよね。だけど文くん指綺麗だし、似合ってると思う」
「そう? 自分じゃわかんないな」
「甲乙つけがたいけれど……この中ではやっぱりその指輪が一番素敵に見える」

 文くんがつけているのは、最初に目に留まったストレートタイプの指輪。

 少し丸みを帯びたプラチナリングはシンプルだけれど、リングの裏側にひと粒ダイヤがあしらわれていると、さっきスタッフが教えてくれた。

 そして、その対であるリングを私がはめている。こちらもまた、同様の形と裏側にダイヤモンドが埋め込まれていた。

 純潔の意と永遠の愛の象徴であるダイヤモンドがさりげなく裏側にあるというのは、私的には女心を擽るデザインだと思う。

 なにより、文くんが私のことを考えて初めに選んでくれたものであるこの指輪が、すでに私の中で特別になった。