エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「まあ結婚指輪を選ぶのにこういうブランド店はベタだろうけど、一番種類も豊富で好みのものが見つかるってネットで……俺もこういうの詳しくなくて。ごめん」

 文くんはばつが悪そうに苦笑して謝った。私は全力で否定する。

「ううん! 謝らないで! 忙しいのに調べてくれただけでうれしい。ありがとう」
「ま、とりあえず色々見てみないことにはわからないよな」

 私が笑顔で返すと、文くんは入り口に向かって歩き出した。

「いらっしゃいませ」

 ドアマンが私たちに気付くと、笑顔でドアを開けてくれた。直後、眩いシャンデリアが視界に入り、別世界に驚く。

 私が茫然としている間も、店内のスタッフは「いらっしゃいませ」と上品に口角を上げ、深々とお辞儀をしていた。
 ここまで恭しく歓迎された経験はなく、緊張せずにはいられない。

「三階だな」
「えっ。あ、ワンフロアじゃないんだ」

 案内板を見ると、どうやら四階まであるらしい。

 文くんが階段を上り始める。私は繋いでいる手を見てほっとした。
 文くんがいなければ、ここで右往左往していたかもしれない。

 三階にたどり着いても、入り口と同じように丁寧にお辞儀される。

「いらっしゃいませ」
「予約してます天花寺です」
「天花寺様。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 流れるように案内されながら、私は文くんを凝視する。
 小声で文くんに声をかけた。

「予約って? わざわざしてくれてたの?」
「うん。土日は混雑するらしいし、しかも今はクリスマス目前でいつも以上に混むと思って。でもここは開店直後の時間しか空いてなくて」

 用意周到な彼に驚くと同時に、やっぱり文くんは頼れる存在だと再確認する。

 誕生日の時も終始スマートだった。ランチではサプライズケーキを準備してくれて、プレゼントまでさりげなく渡してくれた。

 私は恋愛経験ゼロだから、比べたりはできないけれど……多分、多くの女性から高評価を受けそうなエスコートだよね。

 頬が若干火照って感じるのは、寒空から暖かな店内に入っただけが理由じゃないみたい。
 もう何十年も想い続けていても、文くんに対してのドキドキは薄れるどころか増している気がしてならない。

「だから早めに家を出てきたんだね」

 赤いであろう顔に悟られたくなくて、店内を見回すふりをして顔を背けて言った。
 その後、ちらりと文くんの表情を窺えば、にっこりと笑って一度頷いた。